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11
キルタの神殿では、警護についていた西大王国の兵が眠り込んでいる。
ザホスが島民に化け、眠り薬を混ぜた葡萄酒を兵たちに振る舞ったからだった。
極上の葡萄酒を一口だけ。
疲れた身体に力がみなぎる、と甘言にのせられ、疲れ切っている兵たちは皆、葡萄酒を口にした。
ものの5分と経たぬ内に兵士たちは皆、朦朧とし始めた。
見回りから戻って来る兵があれば、ザホスとシアーが先回りして葡萄酒を勧めたため、神殿のあちこちで数十人と言う兵が眠りについた。
サボスとシアーは兵たちが眠り付いたのを確認し、ジュリを神殿に招き入れた。
男装したジュリアは、神殿の広間に立つ神像に祈りを捧げた。
その後、ザホスとシアーの二人が神像を手早く2転させると、神像は静かに後ろに動いた。
二人は目を見張る。
「驚いたな」
「この神さん、生きているのか?」
「こっち」
ジュリアが二人を手招きした。
石像の下には間口が開いており、地下へ続く階段が見えている。
三人が素早く間口に飛び込み、地下への階段を降り始めると、神像は静かに元通りの位置に戻った。
「おい、入口が閉まっちまったぞ」
ザホスが言うと、用心深く辺りを見回していたシアーが言う。
「潮の香りが満ちている。大丈夫だ。風もあるから外には通じている」
ジュリは壁面に施された海神彫像の胸元に手を置いた。
すると、壁面に設置された松明に火が灯り、辺りが明るく照らした。
「ふぇ〜、姫君、あんた本当にすごいな」
ザホスが再び目を丸くすると、ジュリアは少しだけ笑みを浮かべた。
「この神殿にはいくつものからくりがあるの。知っているのは代々の神官長のみ。すごいのは私じゃなくて、この神殿ね」
「ミジェルの野郎が見たら、姫君を魔女だって騒ぎたてるだろうな」
シアーの言葉にジュリの表情が曇る。
励ますようにザボスがジュリアの肩に手を置いた。
「大丈夫だよ、俺が絶対に姫君を守るから」
ジュリアがザホスを見つめて微笑むと、オホンエヘンとシアーが咳払いして言った。
「姫に馴れ馴れしいぞ、ザホス。姫を守っているのはお前だけじゃない。こんなところを頭が見てみろ。お前は丸焼きにされるぞ」
「料理人を丸焼きにしてどうするんだ?」
「頭ならやりかねん」
「やりかねんな。人を丸焼きにした後に、姫に愛を囁く」
「そう、それが我らの頭!」
暢気に物騒な話題を口にしているが、二人からはアレクへの信頼が感じられる。
笑顔のジュリアと、ジュリアの笑顔に満足気な二人は、足早に地下の階段を下っていった。
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