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 一行が光の先を見ると、巨大な海神の彫像の目が青く光っている。 「小さき人は神ではない」  巨大な海神の彫像が声を発した。  彫像から白煙が上り立つと、いつの間にか彫像ではなく巨大な人へと変化した。 「我は海神ネプチュニス。パパティアナが開かれし時、我に仕えし者を助くるために、姿を顕す」  威厳に満ちた声に、一同がひれ伏した。 「西大王国国王よ、我が祝福しキルタの地を仇なす者に容赦はせぬ。なんの罪なき民を窮地に陥れ、(あまつさ)え、皆殺しとは! 臣下がやったこととは言え、おまえに王たる資格はない! お前はお前の国に戻るがいい!」  ネプチュニスにそう言われたイリアス王は、唇を噛み締めて俯いた。  その肩にそっと手が置かれる。  振り向くと、アレクが手をかけてイリアス王に言った。 「神はここでの役目は十分果たしたから、故郷に帰っていいと言っている。異国から連れてこられ、王にまで上り詰めたお前をすごいやつだと思う部分もある。両親を殺したお前を殺そうと何度も思ったが……。両親が死んだのは、お前を担ぎ上げた周りのせいであって、おまえのせいじゃない。数年の年月をかけてそう思えるようになった」 「……君は正統な西大王国王子、アレクス・レオか」 「かつての名はな。今はキルタの鷲、アレックスだ」 「国王夫妻が無実の罪で死罪となった時、当時10才だった王子が行方不明になったと騒ぎになった。追ってを出すも、奴隷(ガレー)船に乗せられたのか、足跡すら掴めなかったと。そこで、東与国の第2王子だった俺が西大王国側に囚われて、奴隷船に乗せられて西大王国にやってきた。西大王国の王子に仕立てあげるためにな。王子と同じような年頃だったから」  イリアス王は海神の前に跪き、続けた。 「私はミジェルの言いなりだった。ミジェルは私の国から着いてきた、ただ一人の友だ。……あれでもな。私は、自分の責任を取る。西大王国国王の座を君に返そう。偉大なるキルタの守護神、ネプチュニスに誓って」 「叶えよう」  ネプチュニスが重々しく答える。  頭を下げ、次にジュリアに跪いたイリアスは、話し始めた。 「ガレー船で西大王国に連れて行かれる際、キルタの催事を目にしました。自分と同じくらいの年頃の少女が祈りを捧げていました。なんと、眩しく見えたことか。あなたは余所者の私に神の祝福を与えてくれた」  そう言ってイリアスはジュリアの手を取った。 「あなたを我が手に。ずっとそう思っていたが、それはだいそれた望みだと、ここに来るまでに思い知らされた。オレたちの愚行をお赦しください」  ジュリアを見つめようとしたイリアスの前に、アレクが立ちふさがった。  ジュリアの手を取っていたイリアスの手を払いのける様子を見てシアーとザホス、バダマは笑いを堪えた。  
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