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「神の子アレクス・レオ、そなたに西大王国国王の地位を授けよう。長きに渡り、キルタを始め周辺諸国を守ってくれたことに感謝しよう」  恭しく跪き、頭を下げてからアレクが海神に申し出た。 「偉大なるキルタの守護神、ネプチュニス。お願いがございます」 「申してみよ」 「私に神の娘、ジュリア・ロゼスをいただきたい。これからの西大王国と周辺の国々の和平のためにも、ジュリアの力が必要です」  海神が笑い出した。 「大胆な願いだな、さすがはキルタの鷲。一筋縄では行かないものだ。ジュリア、お前の気持ちはどうだ? 神の娘として私と共に在るか、人の子として、アレク王と共に在るか」  優しく尋ねられて、ジュリアまっすぐに海神を見つめて答えた。 「人の子としてアレクと共に、あなたに仕えます。人々の和平のために動く、アレクの力になりたいと思います。それが人々を幸せにし、あなたの願いでもあると思うから」 「許そう。二人に祝福を……」  言いかけたところで、ネプチュニスの言葉が止まった。  いつの間に気付いたのか、背後から近寄ったミジェルがネプチュニスの背に剣を突き刺している。  血は(ほとばし)らなかったが、ネプチュニスは人から彫像に戻りかけていた。  烈火の如く怒りを爆発させて。  神殿が揺れた。  パパティアナに無数のヒビが走る。  岩壁がパラパラとブロック状に落ちてくる。  地下に流れ込んで来る海水が増えた。 「ネプチュニス!」  ジュリアが海神に駆け寄る。  ジュリアを落ちてくる岩の欠片から守るように、アレクも付き従う。 「おぉぉ……愚かな人間、許しはせぬ」  ジュリアの声すら猛り狂う海神には届かない。  無数のひびは大きな亀裂となり、浸水している。  崩れ落ちるのは時間の問題だった。 「だめだ! ジュリ! 崩れるぞ」  神殿が崩れ、海水が押し寄せれば小さなキルタ島は波にのまれてしまうだろう。  ジュリアは覚悟を決めた。 「アレク、ごめんなさい。私が、海神の怒りを収めなければ」 「ジュリ、ならばオレも行く!」 「あなたは王です! 民の事を一番に考えて」   言い放って、ジュリアはパパティアナの割れ目から覗く海に身を投じようとした。  それより先に動いたのは、イリアスだった。  呆然としているミジェルを抱きかかえて言った。 「此度の事は先の西大王国王であった私の責任だ。罪を犯した部下と共に、私が海神の怒りを鎮めよう。それが、私が最後に前の王としてできる、最後の事だ」  イリアス王のしようとしている事を感じて、ミジェルか力なく抵抗する。 「いやだ、いやだ! 俺は死なない」 「行こう、ミジェル。私とともに。それが長年側にいてくれたお前への感謝だ。もっと早くお前を止めなかった私の責任だ」  そう言うと、イリアス王はミジェルと共に、パパティアナの亀裂から、迫っている波に身を投じた。
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