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 キルタ島。  西大王国の東に位置する小さな島。  自治権は島内にあり、西大王国も含めて周りの大国からは中立国と認められていた。  キルタ島は海に囲まれた形状から、海産物が豊かで島内には火山で隆起した山や山を流れる川もあり、島民の生活は比較的豊かであった。  人々は自分たちの生活を支えてくれる海の神を崇め、島内の中心に大きな神殿を建てた。  大理石や希少な鉱物を産出する資源豊かなキルタ島に目をつけたのは、西大王国だった。  兵と西大王国の執政官を乗せた大きな軍船がキルタに到着したのが一昨日のことだった。  島の長であるハリアン・バリと執政官の話し合いは一昼夜に及んだが決裂した。  兵たちは執政官の指示の元、島のあらゆるものを強奪した。  抵抗する者は捕まり、見せしめに撃たれた。  何十人という島民が一晩で捕まり、奴隷船に乗せられた。    神殿に仕えていたジュリアも、やって来たミジェルと兵に対峙した。 「何の理由で神の前で暴れるの? そして、神殿を穢すのですか?」  ジュリアの問いにミジェルが薄く笑った。 「信仰神が違うからな。低俗なお前たちに真の神を教えてやらねばならぬ」  そう言って執政官ミジェルはジュリアに近寄り、顎に手をかけると、自分の顔に近づけるよう上を向かせ、無理やり口づけようとした。 「やめて!」  ジュリアは即座にその手を払いのけた。 「ほぅ。執政官に手を上げたか」  「執政官だからと言って、何をしても良いことにはなりません」 「生意気な女め。私に歯向かうと後悔するぞ。今ならお前を許そう。私の足元に(ひざまず)き、私の足に口づけろ。私のために祈れ。さすれば、生涯お前を私の手元においてやろう」 「神官は、誰か一人のために祈るものではない。そして誰かに囲われる物でもありません」  その言葉を聞き、カッとなったミジェルはジュリアの手首を掴み、体を壁に押し付けた。  折れそうなほど細い手首のジュリアだが、そうされても怯まずに意思の強い瞳でミジェルを睨んだ。  怒りで興奮したミジェルがジュリアに言う。 「おまえの貞操をここで穢してもいいんだぞ!」 「なんてことを! あなたに執政官の器はないわ!」 「おい! 何を突っ立っている。コイツを縛りつけて神殿の地下牢にでも放り込んでおけ!」  ミジェルは憎しみの籠もった目でジュリアを睨み、言い放った。  ミジェルは、美しい神官のジュリアがミジェルに泣いて命乞いをする様子を思い描いていた。  
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