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さようなら 私を慈しんでくれたキルタ島 関わってくれた優しい人々 キルタの偉大なる海神よ この命と祈りを貴方に捧げます どうか、どうか キルタの人々をお守りください  ジュリアは括り付けられた十字柱の上で神に祈りを捧げ、舌を噛み切ろうとしたその時。  上空に黒い影が横切り、人々は大きな鷲が舞い降りてきたのかと錯覚した。  シュ、と音がするとジュリアの腕が自由になった。次の瞬間には、縛られていた足首も。  突然自由になり、十字柱から落ちそうになるところを誰かに抱き上げられた。 「跳ぶぞ! 掴まっていろ!」  ジュリアを抱き上げたのは、逞しい体躯の男だった。  ジュリアを抱き上げて、飛び上がる。  重力を感じなさせないほど、ひらりと十字柱が建てられた広場から神殿の階段に飛び移る。  そこからさらにひらりと飛び上がり、危なげなく神殿の屋根に到達した。  最初は呆気に取られていた人々から歓声が上がる。  同じように呆気に取られてジュリアを救出する男を見守っていたミジェルが我に返って兵を指揮すると、兵たちも慌てて男とジュリアを追った。 「逃がすな! 追え!」  大歓声の中、神殿の屋根に仁王立ちになった男が高らかに言い放つ。 「即刻帰って西大王国の王に伝えろ! キルタにはこのアレックスがついていると」 「アレックス? あの海賊王のアレックスか?」  ミジェルか驚嘆した。  西大王国周辺の守護海賊と呼ばれ、他国船が領土拡大のためにやってきた時に、どの国の海軍よりも華々しく活躍し、西大王国周辺の島々の自治を護っていた。  どの国にも負けた事がなく、略奪もないことから、自分たちの王はアレックスだと言い張る民も現れた。 「どこか領地を持ったら自由でなくなる。そうすると、どこも守れない。オレは自由な海の男のままでいい」  アレックスのそんな言葉が吟遊詩人から伝わると、人々はますますアレックスを信奉し、西大王国をはじめとする国々の王は、アレックスを捕らえようとした。  ところがアレックスはとらえどころが無く、なかなか人前に姿を表さない。  ミジェルは舌なめずりをして、薄ら笑いを浮かべる。 「荒くれ海賊とキルタの魔女をどちらも捕らえろ! 海賊は殺してもいいが、魔女には傷はつけるな。魔女にとどめを刺すのは、私だ!」  ミジェルが言い放つと、兵たちが一斉にジュリアを抱いたアレックスを追い始めた。    
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