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「西大王国はキルタの希少石、パパティアナを狙っている」
真面目な顔で話し始めたアレクに、ジュリも真剣な面持ちで聞き入る。
パパティアナはキルタのみで取れる鉱石だった。
光る海虫が集まり、長い年月をかけて鉱石となる。
「パパティアナを手にし者のみ、海神の加護を受ける」
謳うように呟いたアレクに、ジュリアは静かに言った。
「キルタの伝説ね。でもそれはただの伝説」
「西大王国はそうは思っていないようだがな」
「そんなこと……」
「もしも伝説が本当で、西大王国がパパティアナを手にしたらどうなると思う?」
「最近の西大王国は国土を広げることに執着している。西大王国に属国にされた周辺の国々は、奴隷のように扱われ、作物などを搾取されているの。そんな国に海神の加護を思うように使わせるなんて!」
決然と言い放つジュリアに、アレクがニヤリと笑みを浮かべる。
「利害が一致したようだな。俺は海賊の俺を受け入れてくれたキルタの人々に恩がある。また、誰かの所有物になるつもりも、飼犬になるつもりもない。手を組もうぜ、神官殿」
ジュリアの目の前に差し出された手。腕は薪かと思うほど筋肉がついていて太い。
恐る恐る手を差し出すと、アレクがグッとジュリアの手を握った。
その力強さにビクッとすると、アレクは微笑んでジュリアの手の甲を上向かせ、口づけた。
「なっ……!!!!」
驚いたジュリアが手を引き、アレクが笑った。
「騎士の……いや、海賊のご挨拶だよ、姫君」
爽やかな海賊の笑みに、一瞬見惚れたジュリは、慌てて居住まいを正して威厳を保とうとした。
「私は姫ではなく、一介の市民でただの神官よ」
「ただの神官一人、西大王国が狙ってくるものかねぇ」
ジュリアは咄嗟にアレクの顔を見つめた。
「神官殿は美しい。西大王国の執政官、ミジェルが神官殿を手に入れようとするのは分かる。だがね、いきなり魔女と決めつけて、でっちあげの魔女裁判、そして火炙り。迅速に神官殿を追い詰めようとする理由が、まったく分からない。欲しい女を手中にするためだけではないと、俺は思うのだけどね」
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