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「姫君! こちらをどうぞ」  バンッと勢いよく扉が開いた。  甘い香りが船室に広がる。 「焼き立てのパグラヴァとシデリティスのお茶です」  目の前に一切れ大に切ったパイ状の菓子、パグラヴァと香り高いシデリティス(ティー)が置かれる。  パグラヴァの甘いナッツの香りに、ジュリはお腹が空いていることを思い出した。 「海賊船(ここ)料理長(コック)、ザホス。彼の料理は街のレストランより美味いぞ。どんな微量な毒でも感じ取れ、全ての毒の解毒ができる。別称キルタの海蛇だ」  アレクの紹介にコック帽を脱いでお辞儀するザホス。  船室料理人と言うと恰幅のいい男性をイメージするが、 「以後お見知りおきを。さぁ、姫君、頭。料理が温かい内にお召し上がりください。自信作のスイーツで、一口食べれば元気百倍!」  元気よく言って、ザホスはジュリアにウィンクする。  ジュリアが微笑むとザホスは嬉しそうに、高い位置にポットを掲げると、ティーカップへ勢いよくお茶を注いで回る。  一滴も零さずにシディリティス茶を注ぐと、ジュリアは思わず拍手した。  ザホスは嬉しそうに、ジュリアの前に跪くと手を取った。  瞬間、チッとアレクの舌打ちが響く。  どうやら、仲間たちがジュリアに触れるのが我慢がならないらしい。  不機嫌そうにアレクが言った。 「まったく、どいつもこいつも。油断も隙もねぇな。やたらにジュリ触れるな」 「おやおや、頭? 姫君を呼び捨て?」 「油断も隙もない、一番は頭じゃないか?」  そう言って海賊(なかま)たちが笑い、アレクは憮然としたまま、ジュリアの手を取った。 「こいつらに何かされそうになったら、遠慮なく俺を呼べよ、ジュリ」  思わず笑い出したジュリアに海賊たちの目が奪われる。碧から紺碧などくるくる色が変わる彼女の瞳は、貴重な宝石、アレクサンドライトを思わせた。  ミジェルがこの神官を欲しているのも、同じ男としては納得できた。  外見の美しさだけでなく、欲しいと思わせる不思議な雰囲気をもつ女性だった。  それが何故なのか、この神官の出自を早急に調べる必要があると海賊達は思った。
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