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9
西大王国宮殿。
王の執務室でイライラしたように歩き回っているのは、王のイリオスだった。
「ミジェルはいまだキルタの神官一人、見つけ出せないのか?」
「キルタの海賊が連れ去ったとの事でか、目下周辺の海を探しています」
「そんなこと、分かっている!」
イリオスはもっていた葡萄酒の盃を床に投げつけた。
「西大王国の海軍が海賊ごときに劣ると言うのか! 明日までに神官を捕らえられねば、全員の首を刎ねると申し伝えよ!」
「は!」
イリオスの剣幕に部下は慌てて執務室を後にした。
執務室で一人になったイリオスは陶器の壺から、革紐で丸めてあるパピルスを抜いた。
慎重に革紐を解いて、パピルスを広げる。
パピルスには、神殿で催事を執り行っているジュリアの姿が描かれていた。
キルタでは年に数回、島を上げて大きな催事を執り行っていた。
キルタ周辺の国々からも多くの者が供物を捧げたり、祈りを捧げるために祭事に参加した。
美しい神官長が執り行う祭事は人気で、芸術家たちがこぞってキルタの神官長を交易により、流通し始めたパピルスに描いた。
イリオスの元にジュリアの絵姿が届いたのは偶然だった。
客人として招いた他国船団の中に、たまたま祭事帰りの芸術家がおり、ジュリアの絵姿を見せながら、キルタの祭事がどれほど素晴らしかったかを熱弁した。
イリオスはジュリアの絵姿を多くの金貨や宝石と交換すると申し出、芸術家を驚かせた。
芸術家はイリオス王の冗談だと思っていたが、目の前に山と積まれた金貨や宝石は本物だった。
イリオスは、強引に手に入れたジュリアの絵姿を眺め、呟いた。
「ジュリア・ロゼス。神の娘よ。必ず我が元に……」
絵姿を見てはいるが脳裏には、自分よりいくつか年下の幼き頃のジュリアが浮かんでいる。
輝くような光を纏った神殿壇上にいた少女を、手枷足枷をはめられて地べたから眺めていた、奴隷だった自分。
元々奴隷だった訳ではない。
奴隷商人に捕まって売られただけだ。
その後イリアスは、成り上がった。
力や手段を使って。
前王家の人々を幽閉し、自分が西大王国の王に成り上がった時に真っ先に思い出したのはキルタの神殿とジュリアだった。
絵姿を見て、キルタとジュリアを手中にしたいと言う想いが再燃したイリアスは、業火の如く、キルタに攻め入り、ジュリアを捕縛しようとした。
海賊の介入は正直予想外だった。
だが、所詮は海賊。
西大王国海軍に勝てるわけがない。
明日にはパパティアナとジュリアを手中にする。
世界を治めるのは、この偉大なる自分だ!
そう考えてイリオスは、高ぶる感情を少しでも抑えようと努力した。
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