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「ジュリア・ロゼス! 人々を誘惑し、王家に呪いをかけた忌まわしき魔女と断定し、火炙りの刑に処す」  島の港広場に西大王国の執政官(コンスル)と名乗るミジェル・ゾゴッドの声が響き、人々がどよめいた。 「やめろ! ジュリはこの島の神官だ! ジュリを離せ! なぜジュリが死刑にならないといかんのだ!」 「そうだ! お前たちこそ出ていけ! ここは我々の島だ!」  島の人々が口々叫ぶ。  執政官のミジェルが片手を上げると、周りに控えた兵たちが、銃で空に威嚇射撃をしてみせた。  不満を言っていた人々も銃を見て、押し黙る。 「西大王国の船が到着した昨日より、この島は西大王が統治する。逆らう者には容赦はしない」  縄で手を後ろ手に縛られ、首と足首に鎖をつけられたジュリアは燃えるような瞳で、壇上にいるミジェルを睨みつけた。  ミジェルは薄ら笑いを浮かべている。  その顔が言っている。  ──命乞いをしろ。泣き叫べ。私に跪くのなら、助けてやろう。  ジュリアは顔を上げた。  心配そうに見上げる島の人々と青い海が見えた。  大声でジュリアの潔白を晴らそうとした人々が衛兵に押さえつけられているのも見えた。  ジュリアは胸の内で祈った。  偉大なる海の神よ。  どうか、善良なキルタの人々をお守りください。  私の命と引き換えでも構わない。  だから、この島の人々がこれ以上傷つかないよう、どうぞご加護を。  ジュリアがキルタ島の守護神である海の神に祈りを捧げている間に、兵は十字柱に(はりつけ)にした。  十字柱を立てて、周りに小枝や藁を散りばめ、周りに油を撒く。  松明(たいまつ)を持った兵がジュリアの周りに威圧的に立っている。  ジュリアは自分の命が失くなることを悟った。    偉大なるキルタの守護神、海の神よ  私の命を捧げます。  火炙りとなる前に、自分の意思で舌を噛みましょう。  だからどうかキルタを、この島の人々をお守りください。  ジュリアは目を瞑り、不名誉な火炙りになる前に、自ら命を絶とうと、舌を噛む決意をした。  
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