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長らくお隣さんだった頭黒に番ができた。
「むぅ」
頭黒だけ……ずるい。ぶっちゃけいって……。
「リア充むっかつううううぅっ!!!」
リア充……とは、最初の番から習った異界のコトバ。しかし便利なので覚えていた。
「リア充爆破――――っ!」
これも。
しかし……。
「巫子は受けばかり」
この世界の一番偉い神が招く巫子。この世界の八百万の神に気に入られれば番……もしくは伴侶となる。そして子孫が生まれればその中から巫子を選ぶこともできるし、新たな召喚巫子からも選べる。選ぶ……と言うよりも運命として分かるので、ほかの神と喧嘩することはない。
最初の番の子孫から選ぶ巫子も受けばかり。でも巫子は好きだから、今日も付いてゆく。
ひととき、ひとりでお留守番だった時もあれど、今はずっと一緒である。
ずぞぞ……と蛇体をしならせながら当代の巫子・琵琶を見付けて付いてゆく。
「鴇白さま。そろそろ冬眠の季節。眠たいのでは?」
「眠いが……でも……」
また琵琶と離れ離れは嫌だ。
ピッと琵琶の衣を掴めば、琵琶が美しく微笑む。
「では一緒に参りましょうか。途中でお昼寝しても大丈夫ですよ。頭黒さまに運んでいただきましょう」
頭黒に運ばせるのはちょっと悔しいが、しかし琵琶や普通の武官にはこのずんぐりむっくりマムシボディは運べまい。
「うむ」
頷けば、琵琶に差し出された手を取り、共にずぞずぞと移動する。
琵琶は帝に会いに来たのだが、俺は話の間は琵琶のお膝枕で寝るとしよう。
元々夜行性だから昼間は眠いが……冬が近付けばさらに眠い。
琵琶がなでなでと俺の髪を撫でてくれる。気持ちいいな。
うとうとしていればいつの間にか寝入っていたらしい。身体が運ばれている。
一方で琵琶と、頭黒の番の伊月の会話も聞こえてくる。
「起きたのか?鴇白」
頭黒はシマヘビ系カラスヘビ。シマヘビは小ぶりなのだが、頭黒は特殊だから俺を運べるだけでかくて蛇体も長い。
あと、アオダイショウたちは可愛らしいが大型のものもおり、力持ち。普段はぽわぽわしてるのに。
そんなことを考えつつも、うとうとうと……。
次の場所につけば、頭黒が琵琶の膝の側におろしてくれたから、また寝るのだ。くぅ……くぅ……。
「半冬眠が近いな」
神や妖怪の類いの蛇は完全な冬眠ではなく半冬眠。冬の間昼間……俺の場合は夜、少しだけ起きてられるけど……ほぼ寝床で寝てるのが一般的。
俺の場合は夜に少しだけ起きて、眠っている琵琶をなでなでしながら過ごしたり、琵琶が用意しておいてくれる軽食を食べる程度。
ほぼ寝ているが……それでも少し、寂しい。
たまに琵琶が夜に起きて『大好き』と言ってくれるからそれがちょっと楽しみだ。
やがて本格的な半冬眠になると、夜に少しだけ起きる生活が始まった。
「ん……鴇白さま」
「……っ!」
いつものように琵琶をなでなですると、琵琶がうっすらと瞳を開ける。
「起こしてしまったか」
「ううん、鴇白さまと話したかったの」
「俺とか……?」
「うん。鴇白さま。ずっとずっと、これからも、大好きだからね」
「……っ!うむ、俺もだ」
可愛らしく微笑む琵琶がとても……愛おしい。
※※※
「ふ……あぁ……」
暖かい。
換気のために開けられた障子の向こうでは、春を告げる花びらがひらひらと舞い降りている。
「春が、来たか」
夜行性だが、春が来ると感じとるのか、目蓋が開いた。多分春が来て、本能が冬眠が明けたことを知らせるために起きたのだ。
「鴇白さま?」
ふいに顔を見せた琵琶に、にこりと微笑む。巫子は神の目覚めが分かるようになっているらしい。伊月もきっと、頭黒の目覚めを察知できるのだろう。
「起きたのだ」
「ふふふ、おはようございます」
「うむ」
「それと……会わせたい子がいるのです」
「うん……?」
「春宮に親王が生まれたのです。元気な双子ですよ。それから、母子ともに健康です」
春宮……この間交替し、新たに春宮の位を得た琵琶の次男だ。そして次男は妃との間に子を授かった。その子が生まれたのか……。
こちらでは出産は大変なものだが、俺の巫子の孫だとあって、多産に縁起のいい妖怪や神たちが集まってくれた。
そのお陰か母子共に無事らしい。
ふんっ。この俺は顔が広いのだ。
「是非鴇白さまにも」
「うむ。我が血族ぞ。顔を見てやろう」
そう告げれば、琵琶が頭をなでなでしてくれる。うむ……よい気持ちだ。
そして春宮の妃と親王たちの元に来れば、新しい春宮と伊月や目覚めていた頭黒、帝もいるようだ。
「ほら、鴇白さまですよ」
琵琶が俺を紹介してくれると、双子はきゃっきゃと笑う。今度は俺を恐れない子孫たち。それに……。
「この子は次の巫子」
次の巫子は一代二代離れることもあるが、途切れず生まれることもある。今回は琵琶とこの子が同じ時代に俺の巫子となる。
「しかも攻め」
双子の親王はふたりとも攻めである。
「俺の将来の伴侶だ」
まさかここで出会えるとは。その場が賑わうのを聞きつつも、俺は俺に手を伸ばしてくれる将来の伴侶を愛おしげに眺める。
「早く大きくならないかな」
そして育ったら、最初のあいつのように、たくさんたくさん溺愛させるのだ。うむ……今からでも楽しみだ。
【外伝・おしまい】
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