僕は、みる。

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僕は、みる。

「貴方と飲むお酒は楽しいですから」  二人だけの、花見。  誘われたのは、葉桜の頃だった。  花にはそれほど興味はない僕だが、桜を惜しむくらいの情緒はあるつもりなので、快諾した。 「見て下さい。奥の方にはまだ、桜がありますよ。なんという桜なのでしょうか」 「そうだね。なんだろうな」  答えはしたものの、残る桜を探す気持ちにはならなかった。  なぜだろう。  また来年か、と桜を惜しむつもりだったのに。  ……あ。   若菜の見ている方とは、逆。  葉桜の群を見ていたら、はたと理解した。  君が見る()を、僕は、みないからか。  そうだ。  君が見てあげればいい。  僕は、君をみるから。  だけれど、それは。  そう、こんなふうに。  冷たい風が吹いて、わずかに残る桜の花びらたちの、かすかな花吹雪が舞う、この一瞬だけ。  そんなことを考えていたら。 「猫だ。ほら、いましたよ」  確かに、桜の枝の上に。  白い猫が、見えた。  こちらをじっと見つめる双眸。  まるで、僕の気持ちを見透かしているかのようにも思えた。  すると。  にゃあ、と、ただ一声。  猫が、鳴いた。  僕は、声につられて、そちらをみた。  みてしまった。  声が、聞こえる。  「ね、きれいですよ」    「ああ」  そう、それは。  くやしいくらいに、きれいだった。
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