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「息子がご迷惑をおかけしました……」
ん? 母の声?
パリッとした綿の感触。少し消毒くさい。
ここは、保健室?
パチリと目を開けると、見慣れない天井。
周りはクリーム色のカーテンで仕切られている。
「なんか、スミマセンっした。俺のせいなんです……」
藤の声だ。
あぁ、謝るなよ。お前が悪いわけじゃ……
そう言って出て行こうとすると「郷田くん、大丈夫ですか」と、杉本と静香の声がした。
う、静香。さすがにまだ、静香とは顔を合わせたくない。また発作が起きてしまいそうだ。
ズクズクズクズク
胸が痛い。
そんな僕の気をよそに、母がゲラゲラ笑い出した。
「だぁ〜い丈夫、大丈夫! あのバカ息子、ただの睡眠不足でしょ。まったく、音痴のくせに毎晩毎晩、うるさいったら……」
母さーーーーーーん!?
それは言わない約束だろぉ〜!!!
驚きと、怒りと、悲しみと、恥ずかしさと、惨めな気持ちが入り交じった複雑な感情が、次から次へと押し寄せてくる。
僕は、勢いよくカーテンを開けた。
「ママァ〜〜♪ウ〜ウウウ〜〜〜〜♪」
まるでラプソディー……
僕は複合型だったらしい。
重症だ。
ポカンと口を開けたままの皆を前に、僕は持ち合わせた感情の全てを、歌う。
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