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最近では、こういう光景が日常茶飯事になってきており、未発症の人からの理解も十分に得られるようになっている。
まだ症例が少なかった最初の頃の発症者は、好奇な目で見られたり、笑いものにされたり、疎外されていた。呪いだとか、悪魔か霊が憑依したんだと言い出す者もいた。だが、緊急に発足された研究チームにより、このミュージカル症候群がウィルスによる感染症だということが判明し、感染者は同情されて扱いが変わっていった。
原因が明らかになった時にはすでに感染が広まっており、国民は皆、他人事では済まされなくなっていた。
若者たちの間では動画を撮って「#今日のミュ」などとタグ付けをし、SNSにあげたりする者も増えてきた。それに伴って、そこから歌唱力が評価される人たちも出てきている。
さらに一月が経ち、周りの人たちが次々に感染し、発症する中、僕は発症を免れていた。他にクラスにもう二人、発症を免れている者がいた。
生活している環境や条件はほぼ同じだというのに、僕ら三人はなぜ発症しないのだろう? 実のところ、僕の父さんと母さんも未発症だ。
家系? 最強の免疫を持っている選ばれし者だったり?
なんて、そんな風に悠長に構えていると、何やら裏でヒソヒソと噂が流れだした。
"音痴未発症説"
すなわち『音痴は、ミュージカル症候群に感染しても発症しないのではないか』という噂だ。
巷でそんな噂が流れていることを、クラスメイトの藤から聞かされてドキリとした。
――な……なんだって!?
っていうことは、まさか僕は音痴ってこと?
いや、そんなはずはない。
だって僕は、楽譜も読めるし、ピアノだってブルグミュラーのレベルだよ? 絶対音感までは持ち合わせてないけれど、簡単なものなら耳コピだって出来る。ギターだって弾けるんだぜ? それなのに、音痴だなんて……あり……えるのか?
確かに、歌うことは好きじゃない。自分の声が好きじゃないから……。
僕は一抹の不安を覚えた。
未発症者が少数派となった今、未発症者が好奇の目で見られ始めている。
そんな噂が流れているとなると、僕は周りからそういう目で見られているということ?
そんなレッテルを貼られるなんて、嫌だ。屈辱的でしかない。
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