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「あんた音痴だからね」
帰宅するなり僕はリビングのソファーに倒れ込み、クッションに顔をうずめて「何で発症しないんだよぉ!」と叫ぶと、母親が背後から一刀両断。
「え!?」
僕はクッションから顔をあげて、母の方を見た。
「え、まさか気づいてなかったの?私も、パパも、あんたも、音痴なんだよ」
母は、呆れ顔で大きくため息をついてから「声という自分の楽器を使いこなせていないの。脳みそで指令を出した音が、発声できないのよ」と続けた。
「それは、どうにもならないの?」という僕の質問に、母は面倒くさそうに「な~にぃ? あんた、音痴なおしたいの? 発症しないですんでいるもの、ラッキーじゃない」と言った。
「音痴だってレッテル貼られるの嫌なんだよ」と、僕は不貞腐れた。
「えぇ~……面倒くさーい」
「僕の悩みはオバサンにはわからないか」
「オバサンで悪かったわね!ほら、ご飯にするから着替えてらっしゃい」
「へ~い」
僕はずっしりと沈んだ気分で自室へと向かった。そして、母から「ご飯よ」と呼ばれるまでの間、スマホの動画アプリで#今日のミュを探った。それから#悲愴型も。
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