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土日を挟み、テストが終わった日から三日経つが、僕はまだ発症していなかった。
チラホラと、治療薬が送られてきたという家庭も出てきた。薬は割と即効性があり、少しずつ発作を起こす回数が減ってくるのだという。
治療薬が行き渡れば、ミュージカル症候群は終息していく。それならば、このまま発症しなくても……
音痴じゃないことを証明するために、カラオケボックスに行ったっていい。
今はミュージカル症候群のせいで、カラオケボックスの利用客が激減しているらしいが、このパンデミックが終息すればきっと、利用客は徐々に増えていくだろう。
そんな風に思うようにしたら、急に気持ちが楽になった。
「うちにも治療薬届いてさ~、やっと発作落ち着いたよ。本当、毎日大変だったわ……」と、杉本がヤレヤレというように肩をすくめた。
「うちにも届いた」「うちも……」と、藤と静香。
ゲゲゲ……またこういう展開。
ここは「うちも」と続けるべきか?
ほんの少しの間、僕が迷っていると、藤が「あのさ……」と神妙な面持ちで口を開いた。
「ん?」
「あのさ、郷田。すっごい言いにくいんだけどさ……」
藤は眉を下げて、困ったような表情を浮かべて「あ、うん、えっと……」と、いつもの藤らしくないハッキリしない態度をとる。
その藤の後ろで、静香もまた頬を薄桃色に染めてモジモジしていた。
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