00 新たな終生

1/1
92人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

00 新たな終生

 ダダダッと、足音が近づいてくる。  その音を聞いて、家主の父親は連れ合いの母親に声をかける。 「母さん、また来たよ?玄関、開けてやって?」 「はいはい。また今度は何をしでかしたのでしょうね?」  母親は玄関へ行くと、カチャリと鍵を開け、ドアを開けた。  そのタイミングで、入ってくる来訪者。 「あ、おばさん。いつもありがとうございます。いますか?」 「部屋にいるよ。あの子、今日は何したの?」 「名誉のために内緒です。お邪魔します」  来訪者はそう言って、二階に駆け上がっていった。  来訪者は、まっすぐ目的地に到着すると、  引き戸のドアを破壊する勢いで開放し、叫び、手が飛んだ。 「ぐらぁっ!!! 俊平(しゅんぺい)!! 今日こそはタダじゃおかない!!」 「陽菜(ひな)っ、手が早いっ!! 痛いっ!! ごめっ…ごめんなさいっ」 「許さんっ!! 今日こそ挽肉にしてやるからっ!! そこに直れ!!!!」 「ぎゃぁぁぁぁっ!!!!!!」  今日も嘘くさい断末魔が響き渡る。  俊平の両親は、慌てることなく居間で、お茶を啜りながら語り合う。 「母さん、あの二人はいつ結婚するんだ?」 「さぁ…陽菜ちゃんのご両親からも、同じこと聞かれましたけど?」 「陽菜ちゃんも、もっとボコボコにしてやればいいのにな」 「本当に。俊平も叫んでますけど、痛くないそうですし。ああ…そろそろ下りてきますよ?二人とも」  二階から、ドスンバタンと大きな音が響き、  時折、俊平の叫び声が聞こえてくる。  しばらくすると静かになって、  やがて母親の言う通り、二人仲良く下りてきた。 「出かけてくる」 「「いってらっしゃい」」 「すみません、いつもお騒がせしてます。お邪魔しました」 「「いいよ。いつものことだからね」」  こうして二人は、仲良く出掛けて行った。  今世での二人が幸せかどうかは、  本人たちのみぞ知るところだ。  ただ、散々小突き回し、絶叫が響いた後は、  必ず二人が、手を繋いで仲良く歩く姿が目撃される。  これはもはや、町のちょっとしたイベントだった。  俊平と陽菜の歩みは、同じ歩幅。 「陽菜、今日は何食いたい?」 「挽肉」 「…………それは食材だろ?」 「今日も、俊平を挽肉にしそびれたからね?だから、挽肉」 「…分かった。肉汁たっぷりの肉々しい挽肉料理にしてやる」 「いえーい」  これが今世の、二人の幸せな日常。  二人の魂の緒は、解ける結び目がなく繋がっている。  だから、今世での巡り逢いは必然。  そして、  その先も、ずっと…。  - 終幕 -
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!