03 待つ君

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03 待つ君

 海が寛太を連れ去った翌朝。  昨日の嵐が嘘のように、  今日の空は、雲一つなく晴れ渡っていた。  良子が船着き場まで駆けていくと、  仲間たちが、寛太の捜索に出払っていた。 「良子ちゃん、ごめん。俺らの何人かが波に呑まれそうになって、動けなくなってたんだ。そしたら、寛太が皆を助けてくれて…。でも、寛太だけ…っ。ごめんょ…、あっという間だった」  良子は、寛太らしいと思った。 「今、総出で捜索してる。必ず見つけるから」 「うん」  良子は、努めて笑顔を作った。  そして、寛太は必ず自分の元へ帰ってきてくれると信じた。  一面、凪いだ穏やかな海原を前に、  良子は、寛太の無事を祈った。   □◆□◆□◆□  今日一日、寛太を待った。  翌日も一日。  さらに一日。  良子は、毎日海へ行く。  寛太が消えた、波の果てを見据える。  船着き場には、寛太の船が、  主の帰りを待つかのように、凪いだ波に揺れていた。  良子は、寛太が大切にしていた命の船を、  寛太がいつ帰って来てもいいように、  教えてくれた通りに毎日手入れした。  そして、一週間。  漁師仲間総出の捜索も、空しく不発に終わり、  やがて、捜索は打ち切られた。 「ごめんな、良子ちゃん。だけど、寛太が見つかるまで、漁に出ながら探すつもりだ。だから…」 「ううん。今日までありがとう。皆も生業があるんだから」  良子は、自分の機微を決して出さないように、明るく微笑む。 「だから、大丈夫」  仲間は皆、独り残された、気丈に振る舞う良子を気遣った。
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