92人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
03 待つ君
海が寛太を連れ去った翌朝。
昨日の嵐が嘘のように、
今日の空は、雲一つなく晴れ渡っていた。
良子が船着き場まで駆けていくと、
仲間たちが、寛太の捜索に出払っていた。
「良子ちゃん、ごめん。俺らの何人かが波に呑まれそうになって、動けなくなってたんだ。そしたら、寛太が皆を助けてくれて…。でも、寛太だけ…っ。ごめんょ…、あっという間だった」
良子は、寛太らしいと思った。
「今、総出で捜索してる。必ず見つけるから」
「うん」
良子は、努めて笑顔を作った。
そして、寛太は必ず自分の元へ帰ってきてくれると信じた。
一面、凪いだ穏やかな海原を前に、
良子は、寛太の無事を祈った。
□◆□◆□◆□
今日一日、寛太を待った。
翌日も一日。
さらに一日。
良子は、毎日海へ行く。
寛太が消えた、波の果てを見据える。
船着き場には、寛太の船が、
主の帰りを待つかのように、凪いだ波に揺れていた。
良子は、寛太が大切にしていた命の船を、
寛太がいつ帰って来てもいいように、
教えてくれた通りに毎日手入れした。
そして、一週間。
漁師仲間総出の捜索も、空しく不発に終わり、
やがて、捜索は打ち切られた。
「ごめんな、良子ちゃん。だけど、寛太が見つかるまで、漁に出ながら探すつもりだ。だから…」
「ううん。今日までありがとう。皆も生業があるんだから」
良子は、自分の機微を決して出さないように、明るく微笑む。
「だから、大丈夫」
仲間は皆、独り残された、気丈に振る舞う良子を気遣った。
最初のコメントを投稿しよう!