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ベッドに横たわる良子の手に、寛太の手がそっと触れる。
そして、優しく擦りながら、さらに憂いを滲ませる。
「そうか、それも含めてごめんな。結局、どんな姿になろうと、良子の元に戻りたかったけど、今日まで戻れなかったから」
良子はふるふると、首を横にふり、何でもなかったと可愛く笑う。
「寛太は、海の神様に気に入られたんだと思ったよ?だから、毎日神様に『私の寛太を返せーっ』て心の中で叫んでた」
寛太は、良子の手を取り、そのまま抱え上げる。
ふわりと良子の身体が浮き、思わず目を瞑る。
足が地につき目を開けると、良子は寛太の腕に包まれていた。
触れることは出来ない筈なのに…。
それに、
寛太の瞳に映る自分の姿。その姿は、
皺枯れた『おばあちゃん』ではなく、
寛太が連れて行かれた、あの日の姿だった。
寛太の頬にそっと触れる。
思わず良子は、両手で抱えるように包み込んだ。
「ねぇ…寛太。あなたに触れられる…。私は、あなたの傍に行ってもいいの?」
「いいんじゃないか?こうして身体から魂が離れて、俺と緒が繋がってるんだから」
「寛太、本当にずっとこっちにいたの?」
「そうだよ?あっちの神様から『早く川を渡れ』ってせっつかれたけど、勝手に攫っておいて、生まれ変われなんて、ふざけろって言って、渡らなかった。それに、良子のお迎えも俺の役目だからな」
「ふふ、じゃあ、一緒に渡って、同じ輪廻を廻るんだね?」
「そ。そして同時に生まれ変わるんだ」
そう言って、寛太は一旦良子を解放し、手を差し出した。
「行くよ。良子」
「うん。ありがとう、寛太。迎えに来てくれて」
良子は、差し出された手に、自分の手を重ねた。
二人は、同じ歩幅で歩いて行く。
輪廻の輪の中で、次の生涯の準備をする。
そして新たな人生で、再び廻り逢う。
二人の縁は、潰えない。
そんな縁に引き寄せられて、
二人は今世でも再び出逢った。
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