2人が本棚に入れています
本棚に追加
ある日の閉店後
『じゃーん!』
という一文に、アホ面でピースをしたメダカと電動キックボードのツーショット写真が送られてきた。
ピースの指から覗く長い爪に、視線がゆく。
送られてくる写真に写りこむ爪は、日に日に長さを増していた。それを見るたび、メダカがピアノを弾けない事実に安心した。
メダカからのメッセージは、ネイル友達ができただの、ソイツとバケツパフェに挑み、食いすぎで腹を壊しただの、野良猫がいただの。日記のような内容だった。音楽に関する話題が上がることはない。
うるさいので通知は切っているが、返信くらいは適当にしてやっていた。
「なにニヤけてんの? あ、メダカちゃんでしょ」
紫に声をかけたのは店長の岡だ。
元々この店の客だった紫を、ネイリストの道へ誘ったのは彼女であった。
紫は隠すようにスマホの画面を落とし、口角を指で押さえた。
「図星ね」
「なんなんですか」
「めんごめんご。てかさ、メダカちゃん。今までとはタイプの違う男よね」
「いや、アイツはそんなんじゃありませんから」
「うそん。よく話聞くからてっきり」
「冗談じゃない。あんなアホ。第一、子供でしょう」
「や? ハタチらしいよ」
「まさか」
「たしかアンケートにも年が……」
「も、もういいですから。早く始めましょう」
ネイリスト大会の地区予選まで一ヶ月を切っていた。
最近はほぼ毎日、閉店後は岡が練習に付き合ってくれている。
店で大会に出るのは、紫だけだった。
「今年就職したばっかなんだし、気楽にね」
岡は軽い口調で放った。
「いえ、結果は大事ですから。なによりも」
と紫は岡を否定した。
最初のコメントを投稿しよう!