ある日の閉店後

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ある日の閉店後

『じゃーん!』  という一文に、アホ面でピースをしたメダカと電動キックボードのツーショット写真が送られてきた。  ピースの指から覗く長い爪に、視線がゆく。  送られてくる写真に写りこむ爪は、日に日に長さを増していた。それを見るたび、メダカがピアノを弾けない事実に安心した。  メダカからのメッセージは、ネイル友達ができただの、ソイツとバケツパフェに挑み、食いすぎで腹を壊しただの、野良猫がいただの。日記のような内容だった。音楽に関する話題が上がることはない。  うるさいので通知は切っているが、返信くらいは適当にしてやっていた。 「なにニヤけてんの? あ、メダカちゃんでしょ」  紫に声をかけたのは店長の(おか)だ。  元々この店の客だった紫を、ネイリストの道へ誘ったのは彼女であった。  紫は隠すようにスマホの画面を落とし、口角を指で押さえた。 「図星ね」 「なんなんですか」 「めんごめんご。てかさ、メダカちゃん。今までとはタイプの違う男よね」 「いや、アイツはそんなんじゃありませんから」 「うそん。よく話聞くからてっきり」 「冗談じゃない。あんなアホ。第一、子供でしょう」 「や? ハタチらしいよ」 「まさか」 「たしかアンケートにも年が……」 「も、もういいですから。早く始めましょう」  ネイリスト大会の地区予選まで一ヶ月を切っていた。  最近はほぼ毎日、閉店後は岡が練習に付き合ってくれている。  店で大会に出るのは、紫だけだった。 「今年就職したばっかなんだし、気楽にね」  岡は軽い口調で放った。 「いえ、結果は大事ですから。なによりも」  と紫は岡を否定した。
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