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「あぁ、聖」
高橋先輩は向日葵スマイルを聖と呼ばれたその男に向けるが、相手は特に笑顔もなく少し会釈をする程度だった。
綺麗な人だ。すらっとしていて背も高いし、着ているパープルのビッグトレーナーや黒ジーンズも、細身の体によく似合っている。
一瞬モデルさんかな?とも思ったけど、よく見たらこの人、知ってる。
高橋先輩の友達で、先輩が学校でよく一緒に行動している4人組のうちの1人だ。
高橋先輩のクラスの前に財布を落としに行った時にも、教室の前の方に座っていたのを見た気がする。
「2人で遊んでんの?」
聖先輩はぼくを見つめながら言う。
ハッとして目をぱちぱちとさせ、慌てて聖先輩から視線を逸らした。こんな近距離で見たことがなかったし、綺麗な顔だから思わず見蕩れてしまっていた。
ぼくが何か言うのも変かなと思い、チラッと高橋先輩の様子を伺った。
「あぁうん。ちょっとね。あ、この子は小峰って言うんだ。普通科の1年生だよ」
「小峰 雫です。初めまして」
紹介されたので、ぺこりとお辞儀をするけど、やっぱり聖先輩は表情を変えない。別に興味が無いといった感じだ。
(ふふ、無愛想なヤツめ。いくらかっこよくても、高橋先輩のように人当たりがよくて笑顔が素敵じゃないとモテないぞ!)
高橋先輩はぼくに話しかける。
「こいつは聖。俺と同じクラスなんだ。中学も一緒で、同じバスケ部だったんだよな」
「うん」
聖先輩はある1点を見つめていた。
視線の先を辿っていくと、さっき購入したグッズが入っている袋がある。
もしかして、高橋先輩がアイドルオタクだというのがバレてしまう?!
ここはぼくが気を利かせなくては!
「さっき高橋先輩とライブに行ってきたんです。ぼくがどうしても行きたいって言ったら、優しい先輩が付いてきてくれて。野々花ちゃんを生で見れたのは初めてだし、グッズもたくさん買えたし、本当に満足です!」
ぼくは先輩の背中側に置いてあったビニール袋を手に取り、立ち上がって聖先輩の前に出た。
完璧……!
先輩を庇う可愛い後輩を演じるぼく。きっと高橋先輩はぼくをもっと好きになる。
けど、うわぁ、こうして見ると改めて実感する、聖先輩の背の高さ。高橋先輩よりも大きくて、きっと185くらいはあるんじゃないだろうか。さすが元バスケ部。
ぼーっと見上げていると、聖先輩はふぅとため息を吐いた。
「何も聞いてないのに、ペラペラとよく喋るヤツだな」
「えっ」
「歩太、良かったな。で、もう飲み終わったんなら、席座ってもいい?」
何が良かったのかさっぱり分からないけど、聖先輩はぼくが座っていたソファーに着席して、耳にイヤホンをしてスマホをいじり始めてしまった。
「小峰、とりあえず外に出ようか」
ぼくは目が点になりながら、笑いを堪える高橋先輩に手を引かれて店の外に出た。
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