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そして数時間後、恐れていたことが起こった。
ぼくのクラスは2時間目が体育の授業で、体育館でサッカーやドッジボールをした。その最中、「だるいから」といって保健室に行った生徒がいた。授業をサボるためにしょっちゅう保健室に行っている奴で、サボり常習犯だ。
そいつが、4時間目が始まる前に教室に戻ってきた時に言った。
「会長、保健室で寝てたぜ」
──何?!
他の生徒に話すそいつの襟首を引っ張って問い詰めた。
「なっなんで寝てたの?! 具合悪いの?! 死ぬの?!」
「知らねーよ。3時間目の途中でフラフラっとやって来て。顔も真っ赤だったから、熱でもあんじゃねーの?」
「そ、そんなぁっ……誰か付き添いとかは⁈」
「あぁ、途中までいたぜ。背の高いタレ目の茶髪」
それを聞いて少しホッとした。
高橋先輩を1人で保健室まで向かわせていたらはっ倒していただろうが、聖先輩はちゃんとぼくの言った通りに見ていてくれたんだ。
4時間目の現国の先生が教室に入ってくる。
授業なんか受けてる場合じゃない。これは一大事である。
ぼくは日直が号令をかける前に先生のところへ行き、「お腹がめちゃくちゃ痛いので保健室行ってきます」と言い、教室を飛び出した。
先輩、いま会いにいきます。待っててね!
保健室に入ると、いつもの非常勤の女の先生はいなかった。
ぼくはすぐさま視線をベッドのある方へ移す。
1つはカーテンが開いた状態で白いシーツの張ったベッドがあったが、奥側のもう一つのベッドは周りを囲うように白いカーテンがひかれている。
ドキドキと心臓を鳴らせながらゆっくりとカーテンをめくった。
そこには、朝見た高橋先輩の元気な姿が幻だったかのように弱った先輩がいた。
おでこには冷却シートが貼られ、口元にはマスク、苦しそうに眉を寄せる顔は、りんごのように真っ赤だった。
「せ、先輩ぃ……」
「ん?」
涙目のぼくが声を掛けると、高橋先輩のギュッと閉じていた目がぱちっと開いた。
「あれ、小峰」
「先輩、大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だよ」
ゆっくりと上半身を起き上がらせてしまったので、ぼくは慌ててもう一度寝転がるようにお願いした。
高橋先輩はマスクをずり下げ、顎に掛ける。
「ごめん小峰、そこにあるペットボトル、取ってもらってもいい?」
ベッドの足元に転がっていた水のペットボトルのキャップを開けて手渡すと、高橋先輩は飲み干してしまうくらいの勢いで喉を鳴らせた。勢いが良すぎて口の端から少し水が漏れてしまう。
あぁ、それを舐めとって口移しで飲ませてあげたい……と思ってしまった自分を戒め、中身が半分くらいに減ったペットボトルをまた受け取り、キャップを閉めた。
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