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「熱は? どのくらいあるんですか」
「38、8。さっきよりも熱いから、また上がったかも」
「そんなっ! 早退した方がいいんじゃないですか?」
「うん。今日は流石に無理は出来ないなと思って、そうする事にしたよ。うちの母親、昼間は仕事に出てるんだ。さっき連絡入れたんだけど、迎えに来れるのはお昼過ぎになるみたいだから、それまで寝させてもらおうかと思ってる」
心許なく笑ったその表情に、胸が締め付けられた。
本当はぼくがおんぶでもして、家まで送り届けてあげたい。
けどぼくのこの貧弱な体では、おんぶをしても保健室から出たところでバタンと倒れてしまうだろう。
ぼくはそこにあった丸い椅子を引き寄せて座り、高橋先輩と同じ目線になった。
「もしかして、ライブ会場で風邪菌を貰ってきちゃったんですかね」
「あぁ、そうかもしれないな。きっと慣れない所へ行ったから、体がビックリしちゃったのかも」
すると突然、高橋先輩の手がこちらに伸びてきて、膝の上に乗っていたぼくの手の上にふわっと被さった。
猫の体を撫でるようにぼくの手の上を何往復もしていて、なかなか顔を上げることが出来ない。
こ、れ、は──。
かなり恥ずかしいけど、嬉しい。
「小峰は、具合悪くなったりしてないか?」
「あ……大丈夫です。バカは風邪引かないって言うし、現にあんまり引いたことないし……っ」
「俺もバカだから引かないと思ってたんだけどなぁ」
「せ、先輩はバカじゃないです! 先輩はぼくなんかと違って、成績もいいしスポーツも得意だし!」
「もしかして、俺のためにここまで来てくれたのか? 今授業中だろ」
「あ、はい。クラスの友達から、先輩が保健室で寝てるって聞いたので。現国の先生は優しいから大丈夫かなって」
「小峰」
手に力がこもる。
ハッとして視線を合わせると、熱っぽい、どこか扇情的で射抜くような目をした高橋先輩がそこにいた。
「小峰と出会ってから、俺は毎日が楽しいよ。受験勉強しながら生徒会の仕事もやってると、本当に充実してるなとは思うけどたまにうまく両立出来なくてめげそうになる日があるんだ。そんな時、小峰と話したり、小峰の笑った顔を見ると頑張ろうって思える。これからもよろしくな?」
ぼくはこのまま、抱かれてもいいと思いました。
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