◇第1章◇ 優しい先輩と不機嫌な先輩

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 夢見心地のまま、そこでずっと高橋先輩の手を握っていたかったのに、女の先生が保健室に入ってきてしまったので叶わなかった。  体調がどこも悪くないぼくを見抜いた先生は、なかば無理やりぼくを保健室から追い出した。  仕方なしに教室へ戻る最中、ぼくは高揚した気持ちを抑えられずにいた。  もう、気持ちが止められない。  お昼後、もう一度先輩のところへいって言おう。  高橋先輩が、好きですと。  当初のシナリオとはだいぶ違ってしまったけど、両想いはほぼ確定だ。  それに相手が弱っている時だったら言いやすい。  わざわざ授業を抜け出して会いに来てくれたぼくの告白を、簡単に断れないだろう。  告白されるシーンは沢山妄想してきたけど、する側のシミュレーションはあまりしてこなかったので、学食を食べながらぼくはそればかりを妄想していた。  友達にはめちゃくちゃ呆れられたが関係ない!  そして高橋先輩のお母さんが迎えに来てしまう前に、また保健室へ行った。  もし先生がいても休み時間中だし文句も言われないだろうと堂々とドアを開けると、そこにはまた誰もいなくて、手前側のベッドのカーテンが閉められていた。  ぼくはなんてついてるんだ!  中に入り、邪魔者が入らないように鍵を閉める。  よし、と深呼吸をし、ゆっくりとベッドへと近づいた。  床には上履きが置いてある。高橋先輩がこのベッドに寝ている証拠だ。  そしてカーテンにうつったシルエットで、高橋先輩が動いたのが分かった。  ぼくはチャンスとばかりにカーテンをギュッと持ち、一つ一つ丁寧に言葉を紡いでいった。 「先輩。小峰です。このまま聞いてください。こんな場所で言うのもなんですけど……ぼく、ずっと高橋先輩の事が好きでした」  そのシルエットはピタリと動きを止めた。  ぼくの言葉に耳を傾けてくれているようだ。 「男なのに変って思われるかもしれないけど、あの、先輩と話すと、胸がドキドキして高ぶって……好きです。あの、付き合って……くれたら嬉しいです」  うわぁー!  いくら策士のぼくだって告白は生まれて初めての事だし、伝えようと思ってた事の半分も言えてないし、自分でも何を口走ったのか分からないくらいに動揺している!  けど、こういう方が誠意が伝わっていいんじゃないか。  たどたどしく声を発するのも、手が震えているのも演技じゃない。  高橋先輩が好きだからこそ、緊張しているんだ。  高橋先輩は何も言わなかった。  恐ろしく長い時間そのままだったように感じたけど、きっと時間にして5秒とかそのくらい。  シャッとカーテンが横に引かれたので、恐る恐る視線を上げた。
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