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ぼくは高橋先輩に恋をした。
人を好きになるのって、こんな感じなんだと思い、胸がドキドキした。
ぼくの名前は小峰 雫。
これまでかなり平凡な人生を歩んできた。可もなく不可もなくという言葉がぴったり。
成績は普通、スポーツはちょっと苦手。容姿も……普通よりも下かも。あんまりカッコよくはないし、背はちょっと低めだし。
友達の数は多くはないが少なくもない。
彼女がいた経験は0。でも欲しいとは思わなかった。
中学の友達は童貞を卒業するのが目的で特に好きでもない人と付き合っていた奴もいたけど、理解が出来なかった。
キスやエッチはいつか出会う運命の人とする為に大事に取っておくもの。そう考えているのは、オタクの姉が持っている大量の恋愛漫画の影響だ。
憧れの同級生や先輩と少しずつ距離が近くなり、ドキドキしたり泣いたり怒ったりしながらも主人公が成長していき、ようやく好きな人と両想いになって結ばれる。
自分もきっとそんな恋愛をするのだと信じて疑わなかった。
そしてその無垢な気持ちを保ったまま時間が流れ、ぼくは高橋先輩と運命の出会いを果たした。
生徒会長となんて雲の上の存在みたいに遠い人と、帰宅部の平凡な1年生のぼくがお友達になるだなんて普通に過ごしてたんではまず無理だ。
入学式の日に名前だけは覚えてもらったけど、何かアクションを起こさないと二人の距離は縮まらない。
高橋先輩は毎朝、挨拶運動の為に正門まで出てくるのは知っていたから、まずアピールをするならここでだろうなと考えた。
学校が近くなってくるとわざとノロノロと歩いたり、適当にコンビニに寄ったりし、遅刻寸前のところで正門に駆けていき、先輩に挨拶をする。
これを毎日繰り返しているうちに、初めは何も言ってこなかった高橋先輩はぼくに興味を持ち始めた。
『小峰はいつもギリギリだから、もう少し早めに家を出れないのか』
そう言いながらも、どこか嬉しそうだった。しょうがない奴だなぁと、まるで子供を見守る父親みたいな顔。
じゃあ高橋先輩が朝起こしてくださいよー、とぼくは上目づかいで心臓をバクバクさせながらお願いをしてみた。
これは姉の漫画から教わったやりくちだ。こうやって口実を作れば連絡先を交換しやすい。
高橋先輩はあっさりとその案を了承してくれたので、ぼくは心の中でガッツポーズをした。
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