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「ここ」
聖先輩は10階建てくらいのマンションのエントランスに入った。
おぉ、歩太先輩はマンション暮らし!
聖先輩は何度も来たことがあるのか、慣れた手つきで部屋番号と呼び出しボタンを押した。
『はーい』
「俺」
『あぁ、ありがとう。今開けるね』
歩太先輩の声は昨日と変わらずガラガラ声だった。
自動ドアが開いたので中に入り、エレベーターに乗り込んだ。
聖先輩が5のボタンと閉ボタンを押すと、ドアが閉まる。すると急に、背後にいた先輩の腕がぼくの体をふわっと包み込んだ。
「えっ、先輩?!」
「ごめん」
あまりに突然の出来事に、胸に回された手を引き剥がそうとするけど、聖先輩はぼくの首元に顔をうずめてスンスンと鼻を鳴らせるから力が抜けた。
エレベーターは上昇を続けている。
2階を通り過ぎたところで聖先輩は顔を上げ、ぼくの顎を指で持ち上げて扇情的な目をこちらに向けてきた。
「キスしたい」
「……!!」
「してもいい?」
「あ……」
こくんと頷くと、すぐに聖先輩の生暖かく濡れた舌が挿入してきて、ぼくの舌が絡め取られた。
一気に昨日の情事が蘇り、背中にブワッと汗が吹き出た。
「ん、ん……」
隅に追いやられた体は逃げ場を無くし、背中をずりずりと壁にこすりつけながらほんの少し抵抗を見せる。
もし次の階で、誰かがボタンを押して待っていたらどうするのーー!
考えながら、ぼくはその腕をいやいやと押す。けどそれは本気じゃなかった。ぼくはこのキスに酔いしれていた。
聖先輩がちゅく、とかじゅっ、とかいやらしい音をこの狭い空間いっぱいに響かせてぼくの耳を犯す度に、脚がくずおれそうになる。
ついに四階に辿り着いたけど、運良くそこも通り過ぎた。
2、3度顔の角度を変えながら、ぼくらは蕩けるようなキスをして、ピンポン、と電子音が鳴ったのをきっかけにようやく唇を離した。
聖先輩がぼくの濡れた唇を親指で拭ってからきちんと立たせてくれて、腕を引っ張ってくれたおかげでぼくは箱の外に出ることができた。
「やっぱ小峰って、エロい顔するね」
聖先輩はなんだか勝ち誇ったような顔をしてスタスタと歩いていってしまう。
ぼくはぼーっと頭にモヤがかかっていたけど、次第に冷静さを取り戻していった。
──また、やってしまった!!
信じられない。しかも歩太先輩のマンションのエレベーターの中でなんて。
頭を抱えつつも、「早くしろ」とさっきの甘ったるい彼とは同一人物とは思えない冷たい目をした聖先輩に急かされて、足早に後を追う。
角部屋のインターフォンを鳴らすと、マスクをした歩太先輩が出てきた。
「ごめんね聖。わざわざ……あれっ、小峰も来てくれたの?」
「あ、はい……」
「そっか。ありがとうな。散らかってるけど、どうぞ上がって」
あぁ、パジャマ姿の歩太先輩、新鮮……
ボーッと見蕩れていたけど、今この隣の人と熱烈なキスをしてきちゃったことが嫌でも思い出されて、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
聖先輩はまるで何も無かったかのようにふるまっている。
「これ、ポカリとか。あとこれは渡すように言われたプリント」
「サンキュー、助かったよ。お、球技大会の参加種目、全員決まったんだ」
歩太先輩はポカリを一口飲んでから、ゼリーなどと一緒に冷蔵庫に入れ、リビングにあるローテーブルの上に聖先輩から受け取ったプリント類を並べて目を通していた。
ぼくと聖先輩も敷かれたカーペットの上にそれぞれ座る。
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