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それから2人の距離は急速に縮まった。
朝ぼくを見かけたら優しく挨拶をしてくれるようになったし、勉強の邪魔をしては悪いからたまにしかラインを入れないけど、高橋先輩はちゃんと返事をしてくれた。
高橋先輩のクラスの前にわざと財布を落として、届けさせた事もある。
『小峰はおっちょっこちょいなんだな』と少し呆れながらも笑っていた。
これできっと分かっただろう、ぼくには先輩みたいなしっかりした人がついてないと不安だという事を!
休みの日に一緒にどこかに行きたい気持ちは山々だったが、こちらから誘うことはしなかった。
好き好きアピールが強すぎても引かれてしまう。程よい距離を保つのだ。
ぼくの予想だと、そろそろ高橋先輩の方から遊びのお誘いがくるはず。そしてその最中、先輩が昔付き合っていた元カノとばったり出会ってしまい、ぼくがモヤモヤとして先輩と少し距離を置き、ぼくに素っ気なくされた先輩は、寝ても醒めてもぼくの事が頭から離れない。
自分の気持ちに気付いた高橋先輩はぼくに告白をして、見事ハッピーエンド。
これだ。小峰 雫の完璧なシナリオは。
「小峰。今週の土曜日、何か予定ある?」
きたきたきたーー!
数日後、いつものように挨拶運動をしていた高橋先輩に呼び止められた。
きっとデートだっ!
「土曜ですか?……いえ、今週は特に無いですけど」
一瞬考えたフリをしてから先輩に笑いかける。
いつも特に無いのに、ちょっと見栄を張ってリア充感を出したくなってしまう。
「実はちょっと付き合って欲しい場所があるんだけど……もし小峰が嫌じゃなかったら」
「先輩とだったらどこでもお付き合いしますっ!」
ぼくは言葉を遮って首をブンブンと縦に振った。
しかしこの出来事が今後、ぼくの完璧なシナリオを大きく狂わせる結果になろうとは……。
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