◇第2章◇ センパイとお付き合いすることになりました。

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「お疲れ様ー。生徒会室から見えてたよ。小峰、よく頑張ってたな」  すっかり風邪も治った歩太先輩がぼくたちの元へやってきてくれた。  そうだ、このグラウンドの隅っこは生徒会室の窓からもよく見える。仕事しながら歩太先輩がそこから見てくれてるんだったら俄然やる気が沸いてきた。 「ありがとうございます! ぼく、絶対に上達して本番ではシュート決めてみせます!」 「えっ」  聖先輩の動揺した声にムッとする。  無理なんかじゃない! 絶対に成功させて見せるぞ! そして歩太先輩にぼくの活躍している姿を見せて好きになってもらって……あぁ、それまでにはどうにかして聖先輩と別れなくては。  ぼくを真ん中にして、三人で帰ることになった。  校舎の中からぼくらをじっと見つめる複数の視線には気付かずに……。  次の日の放課後も、聖先輩による特訓が行われ、ぼくはひたすらドリブルを繰り返した。  昨日よりはマシになったけど、やっぱり何度か自分の足のつま先にボールをあててしまい、遠くへやってしまう。  今日は歩太先輩は塾があるみたいで、校舎にもういないと分かっているから気が緩んでいるのかもしれない。  聖先輩はベンチに座って、しょっちゅうボールを吹っ飛ばずぼくを見て溜息を吐きながらスマホをいじっていた。 「先輩もちょっとは応援してくださいよ!」 「は? つべこべ言ってないでひたすら繰り返せよ」  聖先輩は冷たい目で言い放ち、スマホにまた視線を戻す。  ぐぬぬ、鬼め、と心の中で悪態をついていたら、向こうから練習用のサッカーのユニフォームを着た生徒が小走りで聖先輩の元にやってきた。 「聖、お前、家の鍵ちゃんと持ってる?」 「ん?」  急にそんな事を言われた聖先輩は、バックの外側のポケットのチャックを開けて、手を突っ込んだ。 「あれ、ない」 「あぁやっぱり。さっき先生が廊下に鍵落ちてたって言って持ってたから。マカロンのキーホルダー付けてる奴なんてお前くらいしか知らないから」 「マカロンッ」  ぼくは口にしてからぶふっと吹き出してしまう。  なんでそんな可愛らしいの付けてるの?  そういえば聖先輩、カフェで会った時にチーズケーキ頼んでたから、甘いものが好きなのかもしれない。  友人が去っていくと、聖先輩はジト目をしながらぼくのほっぺたをぎゅむっと指で押し潰した。 「しぇんぱい、いひぁいれす」 「マカロン好きなんだよ。美味いだろ。これから俺は職員室に行ってくるから、その間もサボらないでちゃんと練習してろよ」 「りょうはいれーす(了解でーす)!!」  ビシッと敬礼し、聖先輩の背中を見送って、言われた通りにボールを跳ねさせてドリブルの練習をした。   「しっかしバスケットボールってなんでこんなに重くて大っきいんだろうなぁー……あっ」  またぼくのつま先に当たったボールは跳ねて、コロコロと転がっていってしまう。  ボールは誰かの足に当たって止まってくれた。  その人はボールを片手で拾って持ち上げる。 「あ、ありがとうございます」 「いいえ」  制服を着た男の人は微笑して、ぼくと視線を絡ませた。  わぁ、この人も聖先輩と同じくらい背が高い。少しツンツンした短い髪。  そして特徴的な目。瑠璃色のカラコンをしている。  切れ長の目にすっと横に引かれた薄い唇。  制服も、いい感じに着崩しているというか。  ネクタイも緩くして少しズボンもずり下げて、オシャレが好きな人って感じ。  なんだか日本人離れしているようなその顔立ちをじっと見てしまう。その人も、ボールを持ったままぼくをじっと見て、一言。 「聖先輩に、教えてもらってるの?」
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