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この人はどうやらぼくの事をどこかで見ていたようだ。そして聖先輩の事を知っている。
聖先輩って言うんだから、ぼくと同じ一年生か二年生か。
「はい。ぼく、今度の球技大会でバスケに出ることになってて。苦手なので教えてもらってるんです」
「へぇ。どうして聖先輩に?」
「えっ、あぁ、えっと……ぼく、会長の歩太先輩と仲がいいんですけど」
この人は聖先輩とはどういう関係なんだろうか。
とりあえずぼくは、こうなった経緯を丁寧に話した。歩太先輩に教えてもらおうとしたが、生徒会の仕事で忙しいとのことで聖先輩が申し出てくれたのだと。
「ふぅん。そういう事」
その人は宙を見ながらボールを器用に片手でクルクルと回転させていた。
おぉ、上手……!
素直に感心していたら、その人は急にぼくの横をドリブルをしながら素早く通り過ぎ、バスケットゴールに向かってシュートした。距離はかなりある。空の下で綺麗に放物線を描いたボールは、リングの縁に当たることもなく、スパン、と見事に通り抜けて地面に落ちた。
「わーー、すごい!!」
拍手喝采。あっという間の出来事だった。
その人は自らボールを拾って、ニコッとしながらぼくに手渡した。
「はい」
「ありがとうございます。お上手なんですね」
「お前が下手くそなだけじゃん?」
……ん? 聞き間違いか?
爽やかな笑顔と言葉が全くマッチしてない気がしたんだけど。
しかしその人はまた、笑顔を崩さずに言った。
「あんま調子乗んなよ、ガキが」
「……へ?」
わしゃわしゃ、と髪の毛をかき混ぜられた後に頭を押されて、ぼくは体がよろめいた。その人はそんなぼくを鼻で笑った後、通学カバンを持ち直して踵を返し、去っていった。
ぼーっとその背中を追い続けていたが、見えなくなった途端に状況を理解してきて、その理不尽さにフツフツと怒りが沸いてくる。
「なっ、なっ、なっ……」
なんだあいつーーー!!
いきなり現れて、調子に乗るなだと? ぼくのどこが調子に乗ってるっていうんだーーー?!
誰なんだあいつは。あんなヤツ見た事もないし、そもそもあんな風に言われる筋合いもない。
ボールを持ったままぼくはメラメラと燃えていた。
「おい。ちゃんと練習しておけって言っただろ」
ハッとして振り向けば、指で鍵が付いたピンク色のマカロンのキーホルダーをくるくると回している無愛想な聖先輩がいた。
ぼくはボールを投げ捨て、聖先輩の腕を持つ。
「ちょっと、聞いてくださいよ!! さっきぼくいきなり……」
言いかけて止めた。聖先輩はぼくが好きだから、ぼくが嫌な思いをしたって聞いたら黙ってはいないだろう。
そいつを探し出して殴っちゃったりでもしたら……
さっきのやつは、たまたま虫の居所が悪くて、運動音痴なぼくに嫌気がさして八つ当たりしちゃったのかもしれない。そうだ、そう思う事にしよう。
ぼくは腕を離して、首を横に振った。
「いえ、何でもないです」
「は? 変なやつだな。ところで、連続してドリブルできるようになったんだろうな」
「はいっ! 見ててください!」
ダムダム、と張り切ってボールを上下させるも、やっぱりほんの数回でどこかに吹っ飛んでいってしまう不思議現象が発生。
聖先輩はヤレヤレと言った様子で頭を抱え「また来週にしよう」と言ってその日は練習は終了になった。
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