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◇第3章◇ ぼくに降り注ぐのはドキドキとモヤモヤと。
自宅に到着した時、すでに夜七時半を回っていた。自責の念にかられながら帰宅したので、かなりフラフラだ。
玄関のドアを開けて靴を脱ごうと三和土を見ると、いつもは無いはずのヒールの赤いパンプスが揃えて置いてあるのに気付いて、ぼくはリビングに直行した。
「妃ねーちゃん、帰ってきたの?」
テレビを見ながら談笑していた爺ちゃん婆ちゃん、母、姉が一斉にこちらを向く。父はまだ仕事みたいだ。
「あぁ雫、おかえりー。うん、お母さんのご飯が恋しくなって」
姉の妃はぼくににっこりと微笑む。
母はぼくの分のご飯を茶碗によそってテーブルに出しながら怪訝そうにした。
「雫、こんな時間までどこ遊び回ってたのよ? 来月、中間考査もあるんでしょう」
「そうそう。だから友達の家で勉強会してたんだ」
ほんとかよ、と疑いの目を向ける母を横目に、ぼくは姉ちゃんに話しかけた。
「大学と一人暮らしはどう? もう慣れた?」
「なんとかね。一応友達も出来たし、サークルも入ってバイトも始めたし、毎日忙しいけど結構充実してる」
姉ちゃんは垢抜けた。
さっき久しぶりに目にした瞬間すぐにわかった。だって編み込みして凝ったかわいい髪型しているし、家では常に学校のジャージだったくせに、今はふわっとしたスカートなんか履いちゃって。
姉ちゃんはぼくが食べ終わったタイミングを見計らって、「私の部屋に来て」と言ったので、二人で姉ちゃんの部屋に入った。
「どう? 私変わったと思わない?」
姉ちゃんはその場でくるっと一周して見せる。
「うん。すごく変わった。ねーちゃん、もしかして」
「ふふ、そう。ついに見つけたのよ、運命の人」
得意気に言う姉ちゃんは、ここぞとばかりに運命の相手だという人の話をし始めた。
サークルで出来た仲良しグループの一人で、今度ついに二人きりで遊びに出かけるらしい。
「凄いねねーちゃん! 有言実行」
「そういう雫は? 運命の相手は見つかったの?」
「……」
「あっ、なんだか意味深な顔! 何よ何よ、勿体ぶってないで早く教えなさいよー」
ずいずいと顔を近づけてくる姉ちゃんの顔が見れずに、ぼくはぼんやりと遠い目をする。
なんて説明をすればいいのやら……。
ぼくは本棚にある大量の恋愛漫画に視線を移す。
「ねーちゃん」
「何」
「好きじゃない人と急にお付き合いが始まっちゃう漫画ってあったっけ?」
「え? そんなの沢山あるわよ! ちょっと待ってね」
姉ちゃんは迷いもせずに本棚から漫画本を何冊か引き出し、床に広げた。
ぼくはまた遠い目をしながら本を手に取り、パラパラと捲る。
ひとつは、根暗な女の子が経験を積むために告白してきた男ととりあえず付き合ってみようという内容だった。
もうひとつのも手に取って見てみると、彼氏がいると周りに嘘を吐き、それがバレるのが怖くて親友に彼氏のフリをしてもらうという内容だった。
「間違って告白しちゃってお付き合いが始まっちゃったっていう漫画はないの?」
「雫、もしかして今そういう状況なの?」
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