◇第3章◇ ぼくに降り注ぐのはドキドキとモヤモヤと。

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「ここに、川で溺れている私と歩太先輩がいます。どちらを先に助けますか」 「歩太先輩」  即答すると、姉ちゃんは舌打ちをして、うさぎのぬいぐるみをポイと放り投げた。  そして今度はパンダのぬいぐるみを手に取り、僕の顔の前で左右に振る。 「じゃあ、歩太先輩と聖先輩が同時に川で溺れています。どちらを先に助けますか」  これは即答出来なかった。  だってどちらも大切だ。どちらを先にだなんて、そんなの選べない。  答えられずにいたら、姉ちゃんはぬいぐるみを床に置いて言った。 「雫、まんざらでも無いんじゃないの?」 「へっ?」 「だって私の時みたく、すんなり歩太先輩って言えなかったじゃない。ちょっと気持ち傾いてるんじゃないの?」 「いや、だって聖先輩も普通にいい人だし。どっちかなんて選べないよそんなの」 「じゃあ、聖先輩の事は正直どう思ってるのよ」 「うーん……嫌いって事は無いんだけど」  嫌い、ではない。  だって聖先輩のオネダリは可愛いって思えちゃうし、急に抱きついてこられると胸がドキドキするし、大事なところを触られるのはダメだとは思いつつも絶対にやめて欲しいとは思えないし(流されやすいぼく)。  姉ちゃんは漫画本やぬいぐるみを片付けた後、ベッドの上に座って口の端を上げた。 「会長を過去にって事にしといて、このまま聖先輩の事を好きになる努力してみたら?」 「えーっ、やっぱりそうなるの?」 「何よ、嫌なの?」 「うーん……分かんないよもう。歩太先輩にバレたらどうしようってソワソワしてるし、って事はぼく、やっぱり歩太先輩が好きなんだよなぁって思うし……あ、でも、聖先輩もめちゃくちゃイケメンなんだ。ツンデレっぽくて可愛いって思う時もあるし……あ、歩太先輩は笑顔が耐えない王子様って感じで頼りがいがあるし、聖先輩は無愛想なんだけど、そんなに悪い人じゃないって最近分かったし……」  伏し目になりながら煮え切らない態度のぼくにイラついた姉ちゃんは、とうとうぼくの腕を持って部屋から追い出した。 「あんたね! そんなどっちつかずみたいな態度取ってると、いつか痛い目みるわよ! 調子乗ってないで、はやくなんとかしなさい!」  バンッとドアを閉められたぼくは、いそいそと自室に入りベッドへダイブする。 「なんだよー、そんな怒らなくたっていいのにぃー」  ブーブーと唇を尖らせながらも、姉ちゃんの言葉を聞いてふと思い出した。 『あんま調子乗んなよ、ガキが』  放課後ぼくは確かに、カラコン野郎にそう言われた。  もしかしてあいつ、ぼくと聖先輩が偽装とはいえ、付き合ってるんだって知ってる? だから聖先輩にバスケを教えてもらってる理由を聞いてきたんじゃないのか──  調子になんて、乗ってない。  けど周りから見たらそう見えちゃうのかも。  カラコン野郎がもし何らかの形でぼくと聖先輩の関係に気付いたんだったら、早めに手を打たないとややこしいことになる。  ぼくは必死に作戦を練ろうとするが、全くいい案は浮かばずに虚しくも休日が終わったのだった。
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