◇第3章◇ ぼくに降り注ぐのはドキドキとモヤモヤと。

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 月曜の放課後、聖先輩は話に出ていた友達の宮本くんと福田くんに練習を教える事になったらしく、ぼくの練習はなくなった。  一緒に混ざるか? と言われたけれど、そこまでのレベルに達していないので止めておいた。  乙葉と一緒に帰る事にして、学校を出る。  乙葉は節約のために自転車通学で、最寄り駅とは反対方向に行かなくちゃならないのに、暇だからと駅まで一緒に行ってくれるらしい。  姉ちゃんに調子に乗るなと一喝されたと言ったら爆笑され、カラコン野郎の事も話したら、聖先輩との関係に気付いてるのかもしれないね、とぼくと同じような予測を立てた。 「だよね? だってそうじゃないとぼくにあんな風に攻撃するメリットはないもん!」 「聖先輩と急に一緒にいるようになったのが、そいつにとってはあんまり面白い事じゃなかったのかも」  という事はあいつ、聖先輩の事が好きなのか?  けど聖先輩はあいつの事を知らないって言ってたし、仲良くしてるって訳でも無さそうだ。  好きだったらアプローチとかするのは当たり前だと思うけど、世の中には色んな人がいる。実際に喋らなくても、遠くから眺めていられるだけで幸せ、だなんて人もいるくらいだ。  え、カラコン野郎、あんな風貌で聖先輩を遠くから見て恋してるっていうの?  想像したら笑えて、吹き出してしまった。 「もしかして、無駄にオシャレにしてるのって聖先輩のためだったり?」 「うーん、それは分かんないけど……ね、雫。そのカラコンの人って、背は結構高い?」 「ん? 高かったよ。乙葉と同じか、それ以上」 「目はちょっと細めで短髪で、制服着崩してる?」 「えっ? 乙葉、そのカラコン野郎知ってるの?」 「いや、多分いま俺たちの後ろにいる」 「はぃっ?!」  咄嗟に振り返ると、3、4メートル後ろに4人で並んで歩いている生徒がいた。1人だけ頭一個分飛び出して目立っている男が紛れもなくあの時のカラコン野郎だった。  ポケットに手を突っ込みながらガムを噛み、ぼくを遠くから気だるそうに見つめている。 「ねぇ、今のぼくたちの会話、聞こえてたと思う?」 「いや、大丈夫だろう。距離もあるし、踏切の音も鳴ってたし」  ホッとしたのも束の間、カラコン野郎に声を掛けられた。 「よう」  この前この人に頭を小突かれた事を思い出し、ぼくは一歩後ろに下がって苦笑う。 「ど、どうも」 「今日は練習しないの?」 「えっ……はい。聖先輩、今日は他の人と練習するみたいで」 「あ、そ」  素っ気なく言って、カラコン野郎はぼくらの横を通り過ぎた。  4人の背中を見ながら、ちょっとため息を吐く。  友達がいたからかな。変に絡まれなくて良かった。 「あの人達、たぶん2年生だよ。あの右から2番目の人、図書委員の2年生と仲良く喋ってたの見たことある」  乙葉はヒソヒソとぼくに話しながら自転車を押した。  なるほど、2年生。  ぼくらは前の4人組と距離が近くならないようにゆっくり歩いた。 「ね、なんかすっごくオシャレにしてるでしょう? 瑠璃色のカラコンなんてしちゃって」 「うん……なんかあの人と、どこかで喋ったことあるような気がするんだよね……」 「え、本当? この学園以外の所でって事?」 「うん、なんだか今初めて喋ったような気がしないんだ……でも気のせいかも。もしかしたらただ芸能人に似てるってだけかもしれない」  乙葉は難しい顔をしながら思い出そうとしていたけど、結局は分からなかった。  あんなに目立つ人と話した事があるとすれば記憶に残るだろうから、きっと勘違いだろうと結論付けていた。 「じゃあ雫、次に聖先輩と練習するのは水曜日ってことだよね?」 「え? いや、明日だけど」  キョトンとしながら応えると、乙葉は「おい」と笑いながらぼくに軽く蹴りを入れる。 「明日は図書委員の仕事だろ。本当、雫は抜けてるな」 「えーっ! そっか、そうだった!」  完璧に忘れていた。  どうしよう、聖先輩に明日は大丈夫ですって言っちゃったよーー! 「あぁぁ、絶対怒られる」 「素直に謝れば、許してくれるよ」  そうだといいけれど。  明日の朝イチで、聖先輩に謝ろう……。
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