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声には出さず、唇だけで「ダメダメッ」と訴えて首を横に振る。
聖先輩は静止虚しく、ぼくとおでこを合わせながら手を動かして、ぼくのを上下に擦り上げた。
体が反応して勝手に跳ね上がり、被っている布が少し揺れてしまった。
シー、と聖先輩は唇に人差し指を当てながら、不敵な笑みを浮かべる。
ぼくは喉が鳴らないように、自分の手の甲を思い切り噛んだ。
(やだ……そこに乙葉がいるのに)
涙もその先走りの卑猥な液体も、溢れ出して止まらない。
指の動きに合わせて、ひくんひくんと腰が浮き上がって脚が痙攣する。
聖先輩の熱い吐息が耳を掠める度、鳥肌もたつ。
「──ぁっ」
我慢が出来ずに漏れ出た声に、自分でびっくりした。
ハッとして目を開けたと同時に、乙葉の足音がピタリとやんだ。
「……あれ?」
乙葉が上げた怪訝そうな声に、頭が真っ白になった。
きっとバレたんだ。
こんなところ見られたらもう、いくら乙葉だとしても恥ずかし過ぎて死んじゃうよー……
ぼくは観念し、震える両手で顔を覆いながら布を捲られるその瞬間を待った。心構えをして、意識を耳に集中させる。
すると、何かを手で軽く叩き払っているような音が聞こえてきた。
「あぁ、折れ曲がっちゃってるじゃん……よっと」
ゴツ、と木と何かがぶつかるような音も聞こえる。
そうか、さっきぼくが落としてしまった本を拾って、元に戻してくれたんだ。
コツ、コツ、とまたこちらに近く音がして、布の隙間から乙葉の靴の爪先が見えた瞬間、本気で心臓が止まりそうになった。
息を潜めて目で追っていたが、ドアが横に引かれて乙葉の体が廊下に出たのが見えた。
扉を閉められ、再び鍵の閉まる音を確認してから数秒後、ぼくは勢いよくシーチングを外して空気を吸い込んだ。
安堵してまた涙が出てきてしまう。
「はぁっ、よ、よかった……」
「な。見つからなかっただろ」
聖先輩はドヤ顔でそう言うので、ぼくはまたキッと睨みつけた。
「なんでそんな偉そうなんですかっ! そもそも先輩がこんな事しなかったら……」
「こんな事って、こんな事?」
「ぁ……あっ、んぅ」
親指の先が、ぼくの亀頭の窪みをすり上げた。
もう焦らしに焦らされたそれは、気を抜けばすぐにでも欲望を解放してしまいそうだった。
「ん……っ、ぃやっ……」
「今出さないと、また誰か来てずっとお預け食らったままかもしれないな」
「やっ……そんなのっ……やだっ」
「じゃあもう、イけ。俺にエロい顔見せながら」
急に片方の手でやんわりと玉を揉まれ、目の前にチカチカと星が瞬いた。
くにゅ、と優しい手つきで転がされて、片方では皮を引っ掻くようにして扱きあげられる。
間近で聖先輩にビー玉みたいな目で見つめられ、ぼくはその視線でもなぜか感じてしまい、体の芯から震えた。
同時に2箇所を弄られて、気持ち良すぎて訳が判らない。
「──あっ、あ……っ、先輩っ、んっ、イくっ、イきますっ」
しっかりと視線を絡ませながら、宣言通りに聖先輩の手の中に白濁を吐き出した。
はー、はー、と深呼吸をしながら、ぼくは先輩の肩口にコテンと頭を預ける。
今日は髪や服を汚すことはしなくて一安心した。
「気持ち良かったか」
「は、はい……すいません、ぼくばっかり……こんな……」
「少しは分かっただろ。俺、結構嫉妬深いんだって事」
横向きにギュッと抱きしめられながら、ぼくは視線を床に彷徨わせる。
そうか。なんでこうなったかって、そもそもぼくが、歩太先輩を見ていたから聖先輩はこうしてぼくに意地悪したんだった。
聖先輩の首筋からは、甘くていい匂いがする。
心地良くて、そこから顔がなかなか上げられなかった。
(先輩、ぼく……聖先輩が……)
ハッとして目を見開く。
今、自然と沸いてきた感情に戸惑った。
確かにこの間までは、歩太先輩のことしか頭になかったはずなのに。
こうして体に触れられると、脳が蕩ける。聖先輩はまるで麻薬みたいな人だ。
体が気持ち良くなっているから脳が勘違いしているってことはないだろうか。
例えばこれがもし、歩太先輩にやられていたら?
ぼくは「この人が好きだ」と同じようなことを思うんじゃないのか。
聖先輩は目を閉じて、ぼくの髪に優しいキスを落とす。
なんだか泣きたくなってしまった。
ぼくがこんなに複雑な心境を抱えているだなんて、夢にも思ってないんだろう。
ぼくのことが大好きな聖先輩……。
本当の事を知ったら、聖先輩はどう思うんだろう……。
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