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え、それって──
歩太先輩は口の端を上げたままカップに視線を落とした。
二人の空気がなんとなく緩やかなものに変わった気がする。
ぼくも同じようにカップの液体を見つめた。赤茶色の液体に動揺の色を隠しきれていないぼくが映っている。
(待って待って。自惚れちゃいけないって分かってるけど、でももしかしたらもしかして……)
歩太先輩の好きな人って、やっぱりぼく──?
ぼくは顔を上げて、うるうると瞳を潤ませた。
「それって誰ですか? ぼくの知ってる人?」
「えぇ? ……さぁ、どうだろうね」
(はぐらかした! 知らない人だったらハッキリと知らないって言えるはずだもんね! もうこれは確実でしょう!)
ぼくは調子に乗って、グイグイと核心にせまる。
「告白とかしないんですか? もし良かったらぼく、相談とか乗っちゃいますよ。こんなぼくの意見じゃ参考にならないと思いますけど」
「え、小峰が? いいよいいよ、なんか恥ずかしいし」
「いいじゃないですか~。それより、誰なんですか? きっとぼくの知ってる人ですよね? 名前とか……」
「これ、小峰の分な」
盛り上がっているぼくの目の前に、コトっとマグカップが置かれる。
見上げると、聖先輩が目を細めてニコリとしていた。
なんて気が利くんだろう。
ちょうどカフェオレを取りに行こうと思っていた所だったので感激する。
「聖先輩、ぼくの分も持ってきてくれたんですね。ありがとうございます!」
ヒートアップしていた心を静めようとカフェオレを一口飲みこんだが、その途端喉の奥が火傷したように熱くなり、舌の上がビリビリと痛み出した。
「ゲホゲホッ!! なっ、辛っ?! 辛っ!! これっ、せんぱっ、何入れたのっ?!」
「タバスコ」
聖先輩はさっきの柔らかい表情から一転、ざまぁ、とでも言うように鼻で笑って自分のカフェオレを優雅に飲んでいた。
くっそーー聖先輩めぇ!! 許せんっ!!
「あはは。小峰、大丈夫?」
歩太先輩は涙目のぼくにおしぼりと水を渡してくれた。
水を一気に飲み干したが、舌のヒリヒリはなかなか取れない。一体何滴くらいINしたんだよっ!!
聖先輩はぼくを気遣うこともないまま、自分のカフェオレを飲み干し、そろそろ行こうか、と爽やかにニッコリと微笑んだ。
もう一度言う!! 許せんっ!!
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