◇第3章◇ ぼくに降り注ぐのはドキドキとモヤモヤと。

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『いいけど、お願い事って何?』  聖先輩は怒ってるのか機嫌がいいのか、本心が掴めないような声色で発した。 「それは……内緒です」 『気になるから、今教えろよ』 「いやっ、それはほんと、あの……当日成功したら、教えます……」 『どうせ成功しないくせに』  はなから決めつけられてムッとして、スマホを握りしめた。 「どうせってなんですか! ぜーーったいシュート決めてみせますからねっ! それで聖先輩にお願い事聞いてもらいますからねっ!」 『ふぅん。まぁ何でもいいけど。そんなに言うんだったら、俺の言うことももちろん聞いてくれるよな? もしお前が1点も取れなかった場合』 「え、先輩は何を聞いてほしいんですか?」 『当日までに考えておく』  ぶつっと電話が切られて、ぼくはますますスマホを強く握った。  最後は笑みを含んだような声色だったから、ぼくが点を取れるだなんて夢にも思っていないようだ。  聖先輩は何をお願いするんだろう。もし点が取れなかったら聞くしかないようだが。  いやそれより、無理だという風に言われたら余計に燃えてきた。絶対絶対、何としてでもシュートをして点を取って、聖先輩にお願い事を聞いてもらって……  聞いてもらって……ぼくたちは、別れて……  (これで、いいんだよね?)  元々は、勘違いから始まったお付き合いだ。  聖先輩といけない事をしているといつも全身が溶けちゃいそうになるくらい気持ちいいけど、終わったあとはいつも喉の奥に小骨が刺さっちゃったみたいになって、ちょっと後ろめたい気持ちにもなる。  だからこそこんな関係、やめなくちゃいけない。  例えそれが、聖先輩を傷付けてしまうことになったとしても。  なんだか胸がモヤモヤしてザワザワして、ギュッと痛くなったのだが、この痛みの原因はなんなのかハッキリとは分からないまま帰路についた。  次の日はドリブルしながら聖先輩にパスを出す練習、さらに次の日はお互い走りながらパスをし合う練習と、段階を少しずつ進めていった。  そしてついに球技大会の2日前、ぼくの放ったボールがバスケットゴールのネットをくぐった。 「わっ! や、やったーー!」  はじめの頃はボードにかすりもさえしなかったのに。まさか本当に出来るようになるだなんて。 「聖先輩、いまの見てましたか?! ぼく、シュート決めたのなんて人生で初めてですよ!」 「あ、悪い、見てなかった」 「もうっ先輩のバカ!」  せっかく決めたのに、スマホでゲームなんかしてないでよー!  ぼくはもう一度その瞬間を見せようとボールを打ってみる。しかしさっきのは奇跡だったのか、何度打っても入ることはなかった。 「フォームが崩れてるし、やみくもに打ってても入らないぞ。もう終わりにしよう。充分練習しただろ」    確かに今日はいつもよりも頑張り過ぎた。  明日は準備があってここも使えなくなるので、実質今日が聖先輩との最後の練習だったから。
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