◇第3章◇ ぼくに降り注ぐのはドキドキとモヤモヤと。

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 聖先輩と駅まで歩き、改札の中に入る。  ちょうどホームに電車がやってきたので、人混みに紛れて電車の中に乗り込んだ。 「明後日、頑張りますからね」  取り留めのない会話をした後で、ぼくはポツリと呟く。  事情が事情だし、お別れした後でも変わらずにお友達として仲良くやっていこうなって都合よく言ってもらえるはずがない。  聖先輩はぼくを恨んだり憎んだりして、今後話すことも難しくなるだろう。終いには一発ぶん殴られるかもしれない。 「練習、疲れたのか」 「え?」 「なんだか元気がないな」  いつもと同じ車両のドア付近に立って外を見ながら言う聖先輩は、ぼくのことを見ていないようでよく見てくれている。  もし別れたら、こうして電車で一緒に帰ることなんてもう無くなるんだろうな。 「いえ、大丈夫です。明日はしっかり体力温存しないとですね」 「まさかだけど、本番で本当に点取れるとか思ってる?」 「あ、またそうやってどうせ無理だろみたいな言い方。さっきぼく、シュート決めたじゃないですか」 「そうだな。特に邪魔するような奴もいなかったしな」  そう言われて気付いた。  本番はチームで対戦するのだから、あんなに落ち着いてシュートを打てるわけがない。 「だからって、分からないじゃないですか。もしかしたら入っちゃうかもしれないですよ」 「何がなんでも俺に願い事を聞いて欲しいみたいだな」 「えっ! あ、まぁ……」  またモヤモヤと複雑な気持ちになる。  もしも点が入ったら、ぼくの運命の歯車は大きく狂い始めるのだろう。  ちょうどよく電車がぼくの駅に到着したので、ぼくは逃げるように「じゃあ」と言ってそそくさと電車を降りると、なぜか聖先輩も電車から降りた。  ドアが閉まり、電車は再び動いて行ってしまった。 「あれ……なんで降りちゃったんですか」 「なんか腹減った。メシ食いにいくぞ」  聖先輩はスタスタと一人で先に歩いていく。  自分勝手だけど、もしかしたら聖先輩なりの気遣いなのかもしれない。  この人ってやっぱり、冷淡で淡白そうに見えて案外面倒見がいいのかも。  くすぐったい気持ちになりながら、ぼくはその背中について行った。
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