◇第1章◇ 優しい先輩と不機嫌な先輩

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「えっ! あの聖先輩って人、知ってたんですか?」  高橋先輩は種明かしをした。  どうやら聖先輩とは小学校からの幼なじみで、ぼくが思っていた以上に仲が良いらしく、お互いの事はだいたい何でも知っているとの事だった。  もちろん高橋先輩がアイドルオタクだなんてことも、とっくの昔に。 「初めにライブに誘ったのは実は聖なんだ。けど見ての通り、あんな感じだろう? 断られるかもって予想はしてたんだけどね、一応」  確かに、あんな低いテンションでライブについてこられても困ってしまうだろう。  ということは、さっきぼくが高橋先輩を守るためについた嘘も言い損だったということか。 「1人で行くしかないかと思ってた時に小峰の顔を見て、誘ってみようと思ったんだ。さっきも言ったけど、小峰だったら安心だし。さっき聖が、良かったなって言ったのは、俺と一緒に行ってくれる人が見つかって良かったなって意味だと思うよ」  まず初めに誘ったのがぼくじゃなかったのはちょっと嫉妬するけど、聖先輩は親友だし普通そうなるだろう。ここは素直に喜んでおくべきだ。 「聖先輩って人とは同じバスケ部だったんですね」 「あぁそうだよ。俺が部長で、あいつが副部長だった。いろいろと衝突もあったけど、いい思い出だよ」  え、あんな無愛想なヤツが副部長?  ぼくがもし聖先輩と同じチームでプレイしろだなんて言われたら絶対嫌だけど。 「聖は顔には出さないけど、よく周りを見ていて、どうしたらうまく行くのかっていうのを自分なりに考えてて。ちょっと言葉で伝えるのが苦手なんだけど、いつだって間違った事は言わない奴だよ」 「けどもう少し、高橋先輩みたいにニコッと笑ってくれてもいいのに。何か怒ってるのかなと思っちゃいました」 「俺は長い付き合いだからもう慣れたけど、やっぱり初対面の人はびっくりするみたいだね。あれはまだいい方だよ。朝なんてもっと機嫌悪いよ。あいつ朝弱いから」  きっと高橋先輩がいくら向日葵スマイルで聖先輩に挨拶しても、無視なんだろうな。なんとなく想像がつく。  高橋先輩は突然、内緒話をするように身を縮こませた。 「実は聖は中2の時、バスケ部の先輩を殴っちゃった事があるんだよ」 「えっ、暴力反対!」 「聖も手を出したのは悪いけど、そもそもは向こうのせいなんだ。3年の1人がレギュラー落ちしちゃって、代わりに上手な1年が入ったんだけど、次の日からそいつのバッシュが片足無くなったり、そいつの下駄箱に虫の死骸入れられたりして」 「うわぁ、典型的な嫌がらせですね」 「その3年と仲間がやったんだってみんななんとなく分かってたけど、証拠は見つからなかったんだ。俺もどうにかしたいと思いつつも何も出来ないでいたけど、聖は違った。3年のところに直接言いにいってさ。しらばっくれる先輩にキレちゃって、気が付いたら殴ってたって後日聞いて。俺、聖のこと凄いなぁって尊敬した。部長に推薦された時、俺が聖を副部長に推薦したんだ」  なんかとてもいい話に聞こえますけど。  きっとその中学では有名な話なのだろう。けれど何があろうと暴力はダメだ。  とりあえずあの人はキレたら怖い。それだけは覚えとこう。  特に接点は無いだろうけど、高橋先輩と付き合った暁には改めてぼくを紹介してもらえるだろうし。
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