苦行

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「聖子先生、秋に教室の発表会があるんです。その時に歌う歌の指導をお願いします」  高村から渡された楽譜を見た。初めて見る曲だ。 「何の曲ですか?」 「それ、僕が作ったんです」 「え!」  楽譜を良く見てみた。「愛」とか「勇気」とか「友情」とかが盛り込まれた勇ましい曲だった。 「子どもにはいいかと思うんだけど、どうかな?」 「ヒーローアニメの主題歌みたいですね」 「そう、それ! それを目指してるんですよ。やっぱり聖子先生は鋭いなあ」  高村は作曲家を目指していると力説した。チャラチャラしたアイドルの曲ではなく、子どもたちに夢と希望を与えられるような力強い曲を作りたいのだそうだ。 「子どもたちの衣装はヒーローやヒロインの物にして……楽しみですね!」  やる気満々で去っていく高村を呆れ顔で見送り、聖子はまたため息をついた。こんなお遊戯のような事をやりたいわけではない。もっと本格的な歌の指導をしたいのだ。でも田舎では幼児向けの音楽教室か、高齢者向けのカラオケ教室しかない。だったら小さい子を育てる方がいいと思って就職した。しかしやる事は幼稚園と一緒。かと言って音楽以外の仕事に就くのは嫌だ。  また都会に戻って就職しようか。そう思い聖子は求人サイトを検索した。
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