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覚醒
「友也くん!」
事務員から話を聞いたのか、高村がトイレに駆け込んできた。
「大丈夫、大丈夫だよ」
そう言うと高村は友也くんを抱きしめた。そして優しく髪や背中を撫でてあげた。
「先生もね、友也くんの年にはたくさんおもらししたよ。小学生になってもおねしょしてた」
「僕、おねしょはもうしないよ」
「そうなんだ。先生より凄いんだ。偉いぞ友也くん」
高村は友也くんの髪をぐしゃぐしゃになるほど撫でた。友也くんの顔にも笑顔が戻った。
「どうする? お母さんに迎えに来てもらう? それとも歌う?」
「歌う! あの歌カッコいいから上手になりたい」
「そうか! あの歌カッコいいか!」
高村は上機嫌でヒョイと友也くんを抱き上げ教室へ向かった。聖子は慌てて片付けをした。拭いたペーパーはゴミ箱に捨て、濡れた服はビニール袋に入れた。小走りで教室に戻ると歌声が聞こえてきた。
「勇気の剣!
愛の魔法!
怖くなんかないさ
仲間がいるから元気100倍!」
子どもたちは拳を振り上げ「ファイトファイト!」と叫んでいた。みんなが指揮をしている高村を見つめ、頬を紅潮させていた。下手でバラバラなのに、何故か聖子の涙腺を刺激した。
「凄いぞ! みんな最高だ! 2番行くぞー」
「ファイトー!」
教室内は熱気に包まれ壁も窓ガラスも歌声に共振していた。何が起きているのか分からない聖子はただ立ちすくんでいた。
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