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そして発表会まであと1週間と迫った頃、聖子は高村の前で歌った。
「どうでしょうか。人前で歌えるレベルでしょうか?」
聖子が尋ねると高村は何も答えなかった。ただ呆然と聖子を見つめ、ポロリと一粒涙を溢した。
「最高です!」
それと同時に聖子に抱きついた。
「え、高村先生……」
「想像以上です! この曲を僕が作ったなんて信じられない。奇跡だ、聖子先生は音楽の女神ミューズだ!」
母なる女神にすがりつくように抱きつく高村。そんな高村の髪を、まるで祝福を与えるように聖子は撫でた。
「素晴らしい曲を作ってくれてありがとうございます」
歌は歌い手だけのものではない事に気付いた。作る人がいなければ歌う事はできない。聞く人がいなければ、歌う場所がなければ歌手は存在の意味を持たない。その全てを与えてくれた高村が、今はとても愛おしかった。
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