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車に乗り込んだ朝陽と澪は、有料駐車場から出る。
「さてと、どこ行きたい?」
運転しながら朝陽が聞いた。澪は別に行きたいところなんてなかった。外に出たのだって、ただ単に自殺に使う道具を買いに行こうと思っただけで、行きたいところなんてなかった。そしてそれを考えることも面倒に感じていた。
「朝陽くんが行きたいとこ行きたいかな」
澪はそんな風に言って誤魔化した。
「そっか。じゃあちょっと遠出するよ」
「どこ行くの?」
「北海道最大の都市、札幌!」
「え、でも私明日仕事______」
澪がそう言うと、朝陽はケラケラと笑って、「明日死ぬってのに仕事行こうとしてんの?そんなのつまんないじゃん!人生の最期くらい、やりたいことやろうよ!まぁそれが仕事だっていうなら、札幌行くのは諦めるけどさ」と話した。
仕事なんて、やりたいわけがない。今すぐにでも逃げ出したい。でもそれができなかった澪は、これがいいチャンスかもしれないと、札幌に行くことを決意した。「じゃあ決まりだね!」と言って、朝陽はニコニコとしながら車を走らせた。
車は高速道路に乗り、走り続ける。その間、澪は彼とどんな会話を交わしたのか、まったく覚えていなかった。今まで不安に苛まれ、心はどんどん荒んでいき、死ぬことを決意したというのに、朝陽と一緒にいるとその心が洗われて、なんとなく安心していた。朝陽も無理をして彼女と会話を続けようとするわけではなく、まるで昔からの知り合いのように、ふと思いついたことを話すだけで、それがまた澪を安心させたのかもしれない。
車は闇夜を進み続けた。夜になると、高速道路も交通量が少なくなる。ただ変わり映えのない景色が前から後ろに流れていくのは少々退屈で、最近あまり眠れていなかった澪を強い眠気が襲った。
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