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好きなことって何だ______?
あれ?自分ってどんなことが好きで、どんなことが趣味だったっけ______?
たしかに、その一瞬は忘れられる。何かに集中すれば、その時間だけは脳内の多くを占めていた“仕事”というものが消えてしまう。だが、何をしていても楽しくないし、何をやっていても、それが終わればすぐに“仕事”がどこからともなく顔を覗かせる。
ストレス発散にはならない。いや、逆にストレスになっていたのかもしれない。それでも、澪は真面目だから仕事には行っていた。どんなに失敗して怒られても、どんなに陰口を叩かれても、社会人としてやらなきゃいけないことだからやったのだ。それが間違いだとも知らずに______。
そんなある日、澪はまたミスをしてしまった。普通に仕事をしていれば絶対にしないであろうミスを犯したことで、ついに上司から次の言葉が彼女に突き立てられる。
「お前、もう辞めろよ」
それは、これまで耐えに耐えてきた彼女の心に大きなヒビを入れるには充分であった。
その言葉を言われた後のことは、澪は何も覚えていなかった。気付いたら家にいて、会社でちゃんと仕事ができていたのか、どういうルートで家まで帰ってきたのか、まったく覚えていなかったのだ。
その時、澪は初めて自分は壊れ始めているのだと気付いたのだ。しかし、誰かに相談することはできなかった。怖かったのだ。
両親からかけられた“がんばってみないか?”という言葉も、友人たちからかけられた“好きなことをして気を紛らわせてみたら?”という言葉も、彼女には鋭利な刃物と同じく見えていた。この時にはすでに、彼女はもう誰かを信じよう、誰かを頼ろうという心の余裕もなかったのだ。
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