出会い

5/17
前へ
/57ページ
次へ
あぁ、ダメだ。死のう______。 何もかもに嫌気が差して、自分という人間の存在価値が何なのかさえ、見失っていた。 “役立たず”のレッテルを貼られ、両親も友人たちも信じられなくなった時、澪は心の底から“死にたい”と願ったのだ。 その日も会社に行った。いつものように行って、いつものようにミスをして、いつものように周りから罵倒され、いつものように記憶をなくして帰ってきて、我に返るのはいつものようにアパートの自分の部屋の玄関のドアが閉まった時。カバンを適当にリビングの隅に放り投げるようにして、寝室のベッドに座る。その時の感情はほとんど何もない。ゆらゆらと視界が揺れている感覚に気付き、初めて自分が涙を流しているとわかって、声を上げて号泣する。 何か悲しい感情があったとか、悔しい気持ちがあったとかではない。心には、もはやほとんど何もない。心に入った大きなヒビが、泣き叫ぶ毎にどんどん大きくなっていく感覚はなんとなくあった。 ひとしきり泣いたとしても、彼女の中は何も変わっていなかった。だから彼女は、明日になったら死んでやろうと決意したのだ。そう心に決めても、気持ちが楽になるわけでもなかった。その理由がただ漠然と、死んでやろうと思っているだけだからなのか、それとも自殺は誰のためにもならないと心のどこかでわかっているからなのかは定かではない。だが、もはや彼女は、生きることに“幸せ”を見出せずにいたのだ。 具体的に、自殺をする時は何をすればいいだろう______。と、澪は働かない頭で考えた末、とりあえず遺書を書いておこうと、高校時代に使っていたルーズリーフに、雑な字でこう書いた。 「もう限界です。死にます。お父さん、お母さん、ごめんなさい」 こんなに雑な字で読めるだろうか______。真面目な彼女はそんなことを考えてしまう。しかし、書き直す気力は彼女にはなかった。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加