余命 明日の自分

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大軌が帰ってから、朝陽は明日朽ちる自分の体をゆっくりとベッドから起こし、部屋の窓の外を眺める。その窓からは、アパートの前のバス停が見える。ちょうど通勤ラッシュの時間帯であるこの時間は、バス停の前に並ぶ群衆を眺めていた。すると、その中に俯く彼女がいた。 やはり、あの子は仕事が嫌なんじゃないだろうか______。まぁ好きで仕事をしている人なんてほとんどいない。みんな生きるために嫌々でも働かなければならないからやっているだけだろう。きっと、あの子もそうなのだ。やりたいことがあったわけでもなく、とりあえず生きるために就職した先に何かしらの問題があって、その問題が彼女を苦しめているのだ。心が壊れてしまうほどに______。 朝陽は、助けてあげたいと感じながらも、思うように動かない体を呪った。元気な頃なら、今すぐにでもこの部屋を飛び出して、彼女の手を引っ張っていたことだろう。まぁ、ほぼ初対面である自分がそんなことをしたら通報されるだろうけど。朝陽は体を引きずるようにしながら歩き、再びベッドに戻る。先ほど大軌には調子が良い方だと言ったが、まともに歩くことも困難であった。正直、起きていることもつらい。歩くのだってフラフラである。 彼は意識が遠退いていく感覚を感じながら、眠りについた。 彼が起きた時、もう夜になっていた。正直、朝陽は眠ってしまった時、自分は死んだのだと錯覚してしまっていた。そのため、目が覚めた時に少し安心したのである。ゆっくりと両手を前に出して挙げ、その手のひらを眺めながら、朝陽は「死んだわけじゃなかったのか……」と呟いた。 寝たからか、彼の体はすこぶる軽かった。朝の気怠さが嘘のようであった。
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