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「どうしたんだろ……癌になってたのが嘘みたいだ……」
彼はその現象を不思議に思った。体を引き裂くような痛みもほとんどなかった。これなら外に出られると、早速、朝陽は出掛けていった。
死ぬ前に、街の方に行ってみよう______と、彼は久しぶりに車に乗って出掛けた。
この病気になる前は、よく街に出掛けてお酒を飲んだ。懐かしい______。そんなことを感じながら、華やかな街の景色を眺めていた。彼は街の中にある有料駐車場に車を停めて、久しぶりの街を歩き始める。
朝陽を迎えるのは、ネオンが輝く華やかな繁華街______。明日も平日だというのにその街は騒がしかった。朝陽にはその騒々しさも心地良かった。そのすべてに懐かしさを含む街を抜けて、駅の方に歩いていく。
大通り沿いにも、何軒もの飲み屋が建ち並んでいて、どこも賑やかであった。その通りをしばらく歩いた先の信号で、佇んで青になるのを待っている女性が一人、朝陽の目に留まる。それは後ろ姿であったが、朝陽にはそれが誰なのかすぐにわかった。
奇跡だ______奇跡が起こった______!!
朝陽は心から驚いたし、何度もこれは夢じゃないのかと、自分の頬をつねってみる。
痛い______。これは夢じゃない______!!
これはチャンスだと、朝陽は直感していた。それまで神様なんていないものだと思っていたが、この瞬間だけは神様はもしかしたらいるのかもしれないと思うようになっていた。
寝て起きて、体が軽くなっていたのも、こうやって彼女に遭遇したのも、全部神様が仕組んだ“奇跡”なのだと______。
「案外信じてみるもんだな……」
朝陽はへへへと笑って呟いた。
彼が見つめるその女性の背中は、普通の精神状態のそれではなかった。
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