出会い

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ふと気付くと自分の顔を覗き込むその男性に驚き、たじろぐ彼女にその男性は「そんなに驚くことないだろ」と、ハハッと笑って言ったのであった。そして、澪は「は?」と、キョトンとした顔で間抜けな声を上げてしまったのだ。 「なんで泣いてんの?」 なんだ、これは新手のナンパか______?なんて、澪に考える余裕はもちろんない。その問いに答えることなく、彼女は信号が変わったことに気付き、横断歩道を渡り始める。何もかもがどうでもいい______。そんな風な結論に至っている澪は、その男性のくだらない質問に答える必要はなかった。だが、澪の目には、そう問いかけてきた時のその男性の無邪気さの中に優しさを含む笑みの残像があった。 澪は死ぬ前にどうしてもその顔が見たくなって一度立ち止まり振り返る。するとそこには、やはり無邪気な笑顔があった。 「あ、こっち向いてくれた。んで、なんで泣いてんの?」 再び男性はそう問いかける。その男性の柔らかい雰囲気は、すっかり冷たくなってしまった澪を包み込んだ。その瞬間、彼女また泣いてしまった。それも、横断歩道のど真ん中、中央分離帯の安全地帯となっているところで立ち止まり、しゃがみ込んで泣いてしまったのだ。 「ちょ、ちょっと!俺何かした!?まずいこと聞いちゃった!?ねぇってば!」 その男性は驚き、戸惑いながら何度も澪に聞くが、彼女は泣くばかりであった。次第に、信号は赤になり、通行できなくなる。その男性と澪は、その安全地帯のところから出られなくなってしまい、すぐ横を通る車のけたたましいエンジン音が、彼女の泣き声を掻き消していた。 近くのコンビニで、ホットコーヒーを二つ買い、その男性はそのコンビニの外で待たせていた澪にそれの片方を手渡すと、「泣かしちゃってごめんな」と言った。
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