出会い

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「コーヒー、飲める?」 その男性が聞くと、澪は、うん。と頷いて答えた。 「そっか。じゃあよかった!」 男性は澪のすぐ横に並び、買ったコーヒーを飲み始める。 「なんで泣いてたのかはもう聞かない。このコーヒーは泣かせちゃったお詫びだから、そのつもりで受け取ってね」 「ありがとう」 澪は久しぶりに他人からの優しさに触れた気がしていた。その後、二人はしばらく黙ったまま、夜風に当たりながら温かいコーヒーを飲んでいた。その空間に澪はすごく居心地の良さを感じていた。そんな時、その沈黙を破ったのは、澪の隣にいる男性の方であった。彼はまだ互いに名前も名乗っていないというのに、ふと、静かに声を落とした。 「俺、明日死ぬんですよ」 その言葉の重たさとは裏腹に、彼の声の調子はすごく軽かった。だから最初は、澪はその言葉を信じなかった。そして、そんな嘘をつくこの男性に嫌悪したのである。 「……なんでそんな嘘をつくんですか?」 ゆっくりと横の男性の方を向き、澪は聞く。すると、彼の横顔が見えたわけだけれど、その時、彼の顔色がすこぶる悪いことで、その言葉が嘘ではないことが理解できた。 「嘘じゃないよ。俺余命二ヶ月って言われたの、病気で。んで、明日がそれの最終日」 そう話す彼の声も明るかった。その途端、澪は自分が明日死のうと思っていることが恥ずかしくなった。「君は?何してたの?」とその男性が聞く。澪はこれを言おうか言わないか迷ったが、答えないのも不自然と思い、「私も…明日死ぬの……」と答えた。その小さな声は、町の騒音に掻き消されそうになったが、すぐ隣にいた彼には届いたようだ。 「そうなんだ。じゃあ同じだね」 彼はそう言って、「俺、朝陽。君は?」と名乗ってから聞く。 「私、澪……」 「澪ちゃんか。オッケー!じゃあ、今からデートしよ?」
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