出会い

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「は?」“明日死ぬ”というワードには似つかないほど明るい声と笑顔で彼は言い、澪はそれに追いつけなかった。彼は澪の手を握り、「だって俺たち明日死ぬ二人でしょ?今から楽しんでおかないと損じゃん」と言った。 朝陽の大きくて男らしい手に、自分の手が包まれた瞬間、澪は彼の手の冷たさに驚いた。それも病気のせいなのか、明るい彼の手とは思えないほど冷たかった。 「デートって言ったって、どこ行くの?私、そこまでお金持ってないよ」 「お金のことは心配しないでよ。それに、お金なんかなくたって、案外楽しく遊べるよ!」 その明るさを見ると、本当にこの人明日死ぬのか?と疑問に思ってしまう。澪は朝陽に言われるがまま、コンビニを後にしたのであった。 彼の冷たい手が、澪の手を握っていた。少し先を歩く彼は気分が上がっているようで、その後ろ姿からでも楽しそうにしていることがわかった。 「ねぇ、どこ行くの?」 「近くに車停めてんの!それ乗ってどっか行こ!」 朝陽が言うように、近くの有料駐車場に彼の車はあった。案外新しめの車で、洗車もされていた。最近、デートに軽自動車で来る男はあり得ないだとか、“蛙化現象”だとかって言われていて、朝陽の車はたしかに軽自動車であったが、正直車のことなんてまったく知識がない澪にとっては乗りやすければ何でもよかった。 「澪ちゃん、免許持ってる?」 「うん、一応」 「じゃあ俺が疲れたら次、澪ちゃん運転して?」 「え、でも私、バリバリのペーパードライバーだし、やめた方がいいと思うけど」 「いいじゃん、明日死ぬんだし。事故ったって問題ないよ」 度々軽い調子で朝陽の口から発せられる“死ぬ”という言葉は、その度に澪の心に重くのしかかる。その時はまだ、その重さについては理解できていなかったが、朝陽と過ごすこれからの時間がそれに気付かせてくれることになる。
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