3話

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3話

 今日の相手はやけに整った顔をしている。  糸が捕えてきた相手。その男がこちらを向いた瞬間、美しい顔立ちに息をするのも忘れて見惚れた。  これは、一瞬のうちに胃を満たすだけでは勿体無い。  そもそも退屈が故に捕えてきたのだ。  空腹を満たすべきは、まだまだ先のこと。 「何か、言いたいことがあれば聞いてやることもやぶさかではない」  体つきは男らしいが、その顔は角度によっては女にも見える。  その整った顔から、一体どのような声を聞かせてくれるのか。どのような言葉を紡いでくれるのか。  いつもの男たちと変わらぬ言葉であったなら、興醒めだ。 「私が望んでやってきた場所ではありませんから、これといって話すこともありますまい」  声音は他の男と変わり映えはしないが、その低音がやけに腹に響く。じんと響いた音が心地よい。  それにしても私を前にこれだけ冷静にいられるとは、肝の座り方も悪くない。  さて、どうしてくれようか。
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