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4話
何とも好ましい男であろうか。
顔立ち、体つきは文句のつけどころもない。それに加えた潔さ。
これまでの人間たちとは違う様子が、隠そうと思っていた私の気を揺らす。
「不思議など、滅相もない。昨夜もこの社の軒先をお借りすれば良かったと、考えただけです」
「昨夜とは?」
「この森の出口にある道の先にある村をご存知ですか? 昨夜はそちらで一晩お世話になったのですが、どうにも人間の方が本能に抗うことができないようで。お世話になっておきながら失礼とは思いますが、貴女とこうしていられる方が気楽だったかもしれないなぁと、そういう訳です」
人間とはさもお喋りな生き物だったのかと、今更ながらその正体に興味が湧く。
私の前に来る者たちは誰しも口を噤んでしまっていたから。
「夕べ、糸が伸びていけばよかったやもしれぬ」
「昨夜でも、退屈しのぎの相手をご所望でしたか?」
「ははっ。それもそうか。わらわが夕べ欲したものが何であったかは、既に記憶の彼方。何かを喰らっていたか、今後を憂いていたか。どうであったろう」
わざとらしく視線を逸らし、その先に据えたのは白い欠片たち。それを同様に目に止めておりながら、この男、恐怖は感じぬか。
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