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1話
あぁ。また伸びてゆく。私の意思とは関係なく、伸ばそうと思ってもいない糸が、地を張って伸びてゆく。
「た、助けてくれ」
糸が捕えてきた名も知らぬ男が私の前に跪き、その命が繋がることを懇願する。
この場においては誰もが同じ顔で同じ言葉を吐くものだ。
その様子も初めの頃は興味をそそられるものでもあったが、間もなく飽きた。
「それはできぬ相談というものじゃな。わらわも食わねば生きてはゆけぬ。其方に恨みがあるわけではないが、糸が捕えてきたもの故、その身堪能させてもらうぞ」
もう何千何万と繰り返した台詞を、飽きもせずに舌の上を転がし、男の耳へと届ける。
さぁ、今宵の男はどの様な味であろうか。
私の意思ではないとはいえ、糸は私の命を守り、欲を満たすために伸びてゆく。
それが捕えてきたのだから、骨の髄までしゃぶらせてもらおうか。
ほら、男の断末魔の叫び声が私の鼓膜を心地よく揺らす。
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